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「…はぁ、はぁっ、…疲れ、た」


今度こそ何も恐ろしいものが潜んでいないか、を
よく確かめて休憩をとる彼女の現在地は
何だかよく分からない広間
四つの燭台に三色の炎が灯り一つは最近その火が消えた跡がある


何も居ないとは言え、やはり不気味なその室内の様子に主人公はゴクリと唾を呑んだ
しかし叫び疲れて枯れた喉は水分を求めて収縮するだけで気持ち悪さが増した

勝手に気分が悪くなり、それが原因で咳き込む
一人暮らしの独身の人間が冬場に風邪をこじらせたような虚しさを感じた




「……なんか、やけに静か」



主人公は四つの燭台を両脇にしている中央の階段に腰を下ろす
すると忽ち周囲が静まった

先程までの煩い追跡者達は意外と諦めのいい性分だったのだなあ、と頬杖を付いて考える主人公
彼女が一人考えれば考えるほど静寂は耳に付いて離れなかった



( そうだ、 今は一人だったんだ )




主人公は自分がこんな広間にポツンと淋しく座っている客観的な画を想像してまた虚しくなった
一人でいる時間なんていつ以来だっただろう、とも考えていた
おそらく勇者の影と出会ってからの彼女には、満足な一人の時間を過ごす暇は無かった
黙っていればそれが続く、自身が動かなければ始まらない、空間の決定権を握っている、そんな感覚は久しぶりのようだったが
主人公がそうはっきり認識したのはこれが初めてだ


主人公はボーとした頭のまま
頬杖を付いていた手の片方を下ろして視線を落とした



手に、握っていたものはない
軽く錆びかけていた鎖
高い位置からそれごと、腕を引いてくる力
妙に真面目な口調とアホな台詞

もちろん、首輪で繋がれた黒の男は此処には居ない


油断していればすぐ間近から聞こえた怪しい声
悪い子供のような汚い言葉使い
小馬鹿にするような笑い方
かと思えばすぐに泣き歪められる顔

頭に載る仮面の重さもない


何も無い








一人というのは



こんなにも



静かなもの

だった だろう  か   ?








― ド  ク、ン








主人公は急に、気が遠くなるような感覚がした
内の心臓が気持ち悪いほど鮮明に胸を叩き
耳鳴りのようなものも聞こえ始めた

主人公の視界が何も居ない目の前の景色を拒み
その明度はジワジワと下がる
やがて何も見えなくなる





「…な、…にっ、」



声を出すのも苦しく
喉を過ぎる空気が痛くさえ感じる
走り過ぎのせいで呼吸が荒れているのとは違う
どうにも止めることが出来ないとしか思えない症状に主人公は苦しみ蹲った



せめて独りの静寂を掻き消すように
鼓動だけが大きく早く鳴った







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