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男は久々に楽しいという感情が沸き上がっていた
モイと剣を交えた時も血がたぎるような感覚を覚えたが
彼は人より少し剣術に長けたくらいで男を満足させるには足りなかった



「何処の誰を斬ってんの?」


男が振り下ろした黒剣は平原の長い草を綺麗に刈ったが主人公には擦りもしない
目の前にいた彼女の姿は男の背後

男が振り向きざまに剣を突き刺すが
主人公の体はまたフワリと宙に舞っていた


「人間の動きではないな」

「ありがと、そっちもなかなか人間離れしてるけど」

サクッと小さい音を立てて主人公が着地すると
また透かさずジャンプ切りを見舞うがやはり当たらない


「当たんないってば」


「……何故、攻撃しない」


完璧に主人公に背中を見せたまま黒服の男が問う
誰が見ても無防備に空いた敵の背を
何もせずに眺めるほど馬鹿なことはないというのに
その馬鹿が先程から男の背中を取っていた



「うっ、…何でって…て言うか貴方…リンクじゃないの?勇者の」


話題を逸らされて紅い目を鋭くする男
最初はその態度と身のこなしから相当の強者と思い込んで楽しんでいたが
逃げるしか出来ない主人公に痺れを切らしたのだ



「…退屈になった」



男の動きが止まり主人公の警戒が解けた一瞬
男は手に持っていた剣を主人公に投げ付けた


「ひぁっ!!?」


主人公は咄嗟に背に持っていた弓で剣を受けとめ払った
男の動きを捉えようと先程の場所に目をやるが既にその姿は無い

しかし払った筈の剣がひとりでに動き主人公に斬撃を浴びせた


「わっ、あぶな!!」


黒剣を弓の弦で押さえるが
剣だけの重量とは思えないほどの力が加わり
ギリギリと痛い音が鳴った

突然と剣の柄の先から黒い霧が湧き
剣を握り主人公を斬り伏せようとする男の姿に戻った



「っ、本当に人間じゃないでしょー!?」



力で適いそうに無い主人公はどうにか状況を打開しようと叫ぶ
だが男の表情が喜ぶだけだった


「その弓はかなり丈夫らしいな」


「確かに!私も、そう思ったけどっ」


「別にそれを破壊するのが目的ではない」


男の紅い目が怪しく光ると
先程のように身体を黒い霧と散らせた



「なっ!!」



霧は主人公の身体を突き刺すように飛んでくると彼女の全てを同色に染めた



「っ、うぇー!!気持ち悪っ…い!」



しかしその黒は直ぐに主人公の身体を抜け出た

黒い霧から人型に戻った男は蹲る主人公を一際睨んだ


「貴様…『記憶』を持っていないのか?」



主人公は未だ走る先程の気持ち悪さを払い除けるのに精一杯で
男を数分無視した







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