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ポウ姉妹は「どうぞごゆっくり」なんて言葉を残し
高らかに笑いながらまたススーと先の通路を進んでいってしまった

炎の青色に染まる部屋には
上手く身動きがとれずにもぞもぞしている人影が二つ取り残されてしまった





「イッッたぁー!!噛んだ!コイツ噛んだヨ!チューチューのヤロう!」


「やはり何かがまとわりついてるらしいな…どうしたものか」



こんな時に頭の良い味方は居ないし
打開策は全く思いつかない

こんな時リンクならどうしていたのか

勇者の影は以前に食べたこの場所での記憶を思い返す
リンクは狼の姿でもって見えない敵を捉え、その俊敏な動きで敵を倒していた

それなら自分も姿を変化させよう、なんてことは今はできるはずもない
首輪がまたしても彼の能力の妨げとなったことに勇者の影は舌打ちした



グゥ… ウォォゥ

   ウゥぅ ォォ


ゾンビのような声がすぐ傍まで来ているのが分かり
勇者の影は焦りを含んだ声でムジュラに提案した



「ムジュラ、仮面の姿になれ」

「え、ナニ、何で?」

「小さくなればまとわり付く物も少なくなるはずだ」

「ム、言われなくテモ分かってるヨぉ、…生意気だぞ勇者の影のクセにぃ!」


中々に盲点だった自分の変態能力に気付かせたのが勇者の影であったことが気に入らない様子で
ムジュラはブツブツ言いながら仮面の姿になった

しかしそんな小さな不機嫌などすぐに消えて
ぉ、軽くナッタ!と喜び仮面は宙に浮かびあがる




「じゃ、オレさまはあのサン姉妹追い掛けるカラ、此処ハ任せたヨ」



「!?…なっ、待てムジュラ!!」



当然、一人が自由になれば自由ではないもう一人を助けるものではないだろうか
勇者の影の脳内でのムジュラの次の行動も当然
自身の鼠的拘束をどうにか剥がしてくれる、というようなものであったのに

ムジュラの仮面はあのポウ姉妹よりも憎たらしくこの部屋を出ていってしまった



「…」


チュー チュー
  チュウ  チュウ チュウ

チュウ
  チュウチュウ チュー
チュウ


   チューチュウ






― ウグゥゥォォオ



ヒタ ヒタ




「…言いたくはないが、囲まれた、か」




未だ動けないままの勇者の影を取り囲んだのは
不気味な声の正体

ギブドの集団であった


本来ならば何処の誰に殴られようが斬られようが
勇者の影が死ぬことはないのだが
つい最近身体の弱体化を自覚した身としては
この状況はまったくの絶体絶命と言うしかない


ギブドは鼓膜に突き刺さるような叫びを上げ一斉に各々の重そうな大剣を振り上げた



「…ッ、クソ」


















「ほっほっほっ…何とも、賑やかですねぇ」




コツ、 コツ


小さな足音が先の通路の方からやってきたかと思えば
小柄の男が体の二倍の荷物を背負ってその部屋に入ってきた


誰とも知れぬ人物の突然の登場にも
勇者の影は驚いている暇が無く
それをいいことに無防備にも男が勇者の影に近づいていった


「何だ貴様は…―」

「んんー…とても良い表情ですね貴方、…この恐怖の中でも諦めの無い眼だ、実に、えぇ、仮面にしたら素晴らしいのに」


惜しいですねぇ、などと呟き
男はうっとりした表情になり勇者の影の顔を観察した





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