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「クスクス…クスクスクス」



不気味な女の笑い声だった

勇者の影はまたムジュラが奇声を発しているものと思ったが
どうやらその声は勇者の影の背後から聞こえてきているようだった


その声はだんだんと二人の元に近付き
複数の気配と笑い声が二人を取り囲んだ




「クス、生者の魂なんて久々ですわ」



「姉さま、私あの黒髪の方が欲しいわ」



「クスクス…焦っては駄目よ、ほら、恐がっているじゃない」



三人分の声色が雑談を交えて尚も笑う

姿を見せないままに女たちの声が反響すると
普通は誰でも怯え竦み恐怖するだろうが

やはり勇者の影もムジュラも普通ではなかった




「叩き割るッテ…ヤッテミロヨ、弱勇者の影のくせにっ」


「ふん、生憎だが無力の変態をいたぶる趣味は無い」


「え、ちょっ…アナタたち…―」


「アレー?ヤッパリできナインじゃん、弱弱虫!」


「貴様の安い挑発に乗ると思うか?」


「あの、話を…―」

「黙れ!」「死ネ!」



二人が一斉に怒鳴り

小煩い女の声の源を睨み
黒剣を抜いた勇者の影がそれを切り捨てた




「キャー!ね、姉さまぁぁ!」


「なんてこと…、許さないわ!」


「本当のことダよ、勇者の影は弱い、だから要らないんだ」


「ちょっ!なお無視!?」



勇者の影は青筋を立てて黒剣を構えた
ムジュラは即座に姿を人間に変えて切り掛かる勇者の影の攻撃を背後に避けると
偶然にもその通路を通りすがったポゥフィーから白光の鎌を奪い取って勇者の影に向けた
煩かった女たちの声は二人の殺気を感じて縮み上がっていた



「貴様に武器など扱えるのか?」


「知らなイシ、ドウデモいいよ!」



ムジュラは水平に鎌を振り回し
勇者の影はギリギリのところでそれを下に避け一気に無防備なムジュラの足元を狙った

ムジュラは鎌の刄先を通路の横壁に突き刺しそれを支えに高く跳び
反動で壁から抜けた鎌を勇者の影に振り下ろした


「くっ、!!」



「勇者の影も思うデショ?主人公がボク達を捨てたって」


「…っ、知るか!そんなことを考えたところで、本心まで…読めるわけではないぞ」



なかなか上手く鎌を振るってくるムジュラに翻弄されつつも
勇者の影は全てを剣で受け流した
少々押され気味な感じを抑えて一度曲刃を受けとめ
ムジュラの鎌を持つ手を蹴りあげ
続いてムジュラの腹を蹴り飛ばした



「ワッ、イタっ!!」


「…!!」


飛ばされていったムジュラに追い打ちをかけようとしたが
先程蹴りあげた鎌が勇者の影の首の鎖を巻き込んだまま天井に突き刺さっていて身動きがとれなくなっていた



「ハッ、バカ馬鹿勇者の影」


起き上がり態勢を建て直す最中のムジュラを目がけて勇者の影は鎖を引き
絡まる鎌もそのままに鎖を振り上げた


鎌は力に引っ張られるまま天井から抜けてムジュラの方へ飛んでいった
カーブしているその刄に沿って円を描き飛んでくる鎌に恐怖もせず
ムジュラは一瞬に柄の部分を手に収めて一緒に飛んできた勇者の影の鎖をグイっと引き寄せた






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