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何年も人が立ち入っていない筈だが
処刑場の内部は松明の明かりによって足元が見える程度に明るくなっていた


その通路を忙しなく掛け続ける足音が二人、ではなく一人分

勇者の影が走る靴音が響き
仮面の姿に戻ったムジュラが彼の頭に居座っている



「主人公は…戻ってコナイと思う」


ポツリとこぼしたムジュラの言葉に
走る速度を変えず勇者の影が言い返した



「何だその言い草は…別に何かを裏切られたわけでもないだろ」


「ハァーあ、勇者の影は知ラナいだろうケド…主人公はボクが要らナイって言ったんだ」



「……何だと?」


正確に言えば主人公がそう言ったわけではなく
ムジュラがそうと解釈しているだけだ

その内容を自ら説明するムジュラは
少し泣きだしそうな声ではあったがぐっと堪えているのが伺える

勇者の影は何か思考を巡らせた後に走りを止めて立ち止まった








「ムジュラ、…魔力を失ったか?」

「アレれ?バレちった?」


ケラケラと乾いた笑い声を出す仮面を手に取り
向かい合いながら勇者の影は苦い顔をした

常日頃から感じていた
吐き気を催す気持ち悪い力の存在が
今は全く感じ取れず
ムジュラはまさにただの板切れ同然だった



「ソウイう勇者の影だって、弱くナってンじゃん」


「馬鹿な……」



馬鹿なことを言うな


そう切り捨てようとしたがすぐに勇者の影は言葉を切った


(弱くなっている…?)


思い当たる節は無いわけではない
むしろ最近やたら実感しているほどだ

幻影の砂漠を歩いた時、勇者の影は確かに幻を見た
しかしおかしいとも思っていた

かつて勇者の記憶を追い求めて砂漠を一人で渡った時には何ともなくそこはただの砂漠だった
それなのに今回はばっちりと精神をすり減らすほどに幻影にはまったのだ

主人公を平原からハイリア湖まで運んだ時
やたらと身体に重くのしかかった疲労感

そして砂漠で感じた目眩

気付けば小屋の中で眠っていた



今までの勇者の影にこんなことは無かった
疲労感など持ったこともなく
ましてや睡眠も必要なかった




「ダカラ、主人公はもうボクとも、勇者の影とも一緒にタビしたクナいと思
ッぐべ!!



勇者の影は手に持っていた仮面を下方に叩きつけた

仮面は痛さの為か
それとも魔力の無さ故か
一向に浮かび上がってこないで地面に静止した





「それ以上言えば叩き割るぞ」





感情の籠もらない声に

ムジュラは言い返すこともなかった



しかしどこか聞き覚えのある別の声が響いてきた









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