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ムジュラはそこで初めて立ち上がり男の姿を見た

褐色を通り越して黒色に見える肌と燃えるような赤髪の巨漢
姿を目に映してみてもやはりムジュラは男に見覚えはなかった






「ボクに欲は無いンダ」



「…ほう」



「タダ、人が…ボクを欲しがる、そんだけ…ボクが何かを欲しがるコトなんて無い」



「泣いていた者が、よく言う」



ふん、と鼻で笑い飛ばされムジュラの顔が歪む
いつもの調子ならこんな不愉快な男でもすぐに魔法で始末しているところだが
生憎とそれができないのでムジュラはただ悔しそうな表情で睨むことしかできないのだ




「良いことを教えてやろう…欲望を持たぬ愚者が辿るのは衰退と惨めな死のみだ」



「……」



「特にこの地は、…貴様のような者を生かしておくほど穏やかではない」


「…だから、ナンだよ」


「軟弱な生き物を見ると…虫酸が走る」



「オマエ…殺すよ?」



ムジュラの怒りが頂点に達し
半笑いの口が殺意を込めてそう言うと

男はベラベラと連ねていた言葉の続きを引っ込めて代わりに高らかに笑った

死の風がムジュラの髪を流し男のマントをなびかせた




「そうだ、それでいい…殺意は貴様の欲望だ」



「ウルサイし、意味分かんない!」



「自覚することだ、貴様は欲に塗れた人間だとな」



「早くどっかイケよ!!」


ムジュラが声を荒げるほどに男は声をあげて笑い続けた
普段は人を翻弄する側のムジュラだったが今は目の前の男にいいように転がされている



「どうだ、俺に付いてくる気になったか?」


「今の流れでソンナ気になれると思っタの!?勧誘ヘタクソだよオマエ!」



ムジュラは思わず慣れないツッコミ役に回ったが
やはり楽しそうにする男の笑いは止まらず
ムジュラは嫌気がさしてその場から立ち去ろうと背を向けた
何故もっと早くそうしようとしなかったのか
頭の足りない自身が恨めしいと思うほどだ

そういえば自分がそんな感情を持ち合わせていたということも新事実だ






「力が欲しくないのか?」



最後にわざとらしいほどの大声に呼び止められる


ムジュラは首だけ振り返って馬鹿にするような表情を向けた





「そんなエサで、ボクが釣れると思ってんノか?」





やれやれ、と肩を竦めて見せてから声を張り上げて男に言った






「ボクはムジュラだよ」





誰に飼われることも許さない
誰にひれ伏す事も許さない
従うこともしない
求めることもしない


何故なら彼はムジュラだからだ



その例外はただ一人で十分だろう

彼にその自覚はなくとも

































「そういえば、アイツなんだったんだ?」



ムジュラが主人公と勇者の影の元へ帰る道中
やっと浮かんだ疑問を解消しようとしてみたが無理だった

なんたってムジュラとあの男は面識が無いのだから



「ア!なーんかムカつくと思ったら、勇者の影と喋り方似てるンダ!」


納得したように手を叩いたが結局は肝心なことが分からないままだった



「トコロデ…なんでボクあんな所に居たんだろ」



そして次に浮かんだその疑問は
その答えを知っているものなら肩の力が抜けて序でに溜め息も深くしてしまうだろう

魔力を失い主人公にも見離されて
傷心の思うままに走った結果
砂漠の真ん中に来てしまったのだが

今のムジュラにとってそれはもう忘却の彼方だった







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