AM | ナノ







「モイ…という名前だったか、確か」


男は足元に倒れている人間を観察しながら頭を捻った

モイとこの男は確かに初対面であったが男はモイの名前を言い当てた
男は『モイを知っているという記憶』を持っていたからだ


男は俯せのモイの頭に黒い手を載せて目を閉じると
自身の体を黒く液化してモイの体に溶け込ませた

モイの肌の上を黒い闇が渦を巻いて動き回り
『記憶』を探り出すとその黒は男の姿に戻る




「…ふん、まずまずだな」



これからの動向を考え
広い平原を見渡していた時
背後からの悲鳴を聞いて男は台車を見た
モイとの戦闘ですっかりその存在を忘れていたが
荷台に誰かが乗っていることが明らかになり再び興味が湧いたのだ






「う、…っわぁぁー!!」


「…!!」


男が向かう間もなく
一人の少年が飛び出して木製の剣を振りかざした
完全に不意を突いた攻撃は男に向かった


「遅い」


少年は確実に懐を狙ったつもりだったが男はいとも容易く剣を弾き
モイと同様に少年の身体に侵入した
悲鳴をあげる間もなかった



どさりと鈍い音を立てて草原の上に落ちる少年の体

横たわる二人の間に男が立ちつくし
少年から得た『記憶』を丁寧に自身の中に取り込んでいると
また台車から声がした

女の声だった






「あぁ…やられたか、この二人」




言葉の割に大して問題にも思っていないような口調で彼らの姿を眺める女を見て
男は思わず声をあげて笑った




「昨日に続き大量だな…貴様も『勇者の記憶』を持ってるのか?」


「それはどーいう意味?」


女は勇者という言葉に僅かに目を細めて質問で返してきた


「知る必要は無いな、俺の質問に答えろ」




「…私の名前は主人公!宜しく…しなくてもいいか」



(ん…?俺は今こいつに名前を訊ねたのか?)
と男は一瞬怯んだ
余りにも自信たっぷりに腰に手まで置いて発言する主人公に
自分の言った内容まで疑わしくなってしまった



「それで…『勇者の記憶』って何かしら?」


再度聞き返す主人公
口元の笑みは男のそれにも負けないほど冷徹

男は何を言っても無駄なことを悟った








[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -