第73回フリーワンライ「彼女のためのサナトリウム」

第73回フリーワンライ「彼女のためのサナトリウム」



お題:
○○になるまで待って(○○は自由)→元気
無邪気なキミの計画性
ときめくキスより噛みついて
蕩ける現実
廓の花
透明な想いを色づけたい


ジャンル:オリジナル サイエンスフィクション?


815文字




私がおとなになって、元気になるまで待っていてくれる?――ああ、いいよ。
行きたいところが沢山あるんだ。――ふうん、楽しそうだね。
あの山、この城、大草原。
その観光案内はどこで手に入れたんだい?無邪気なキミの計画性には、全く恐れ入るよ。
白い壁と高い塀で囲われた、廓の花のようなキミ。陽の下で見れば、きっとその白い髪も肌も輝くんだろうね。
けれどね。
それは無理だよ。君の笑顔蕩ける現実逃避に、噛みついてみせる。ときめくキスより、キミの目を覚ましてあげられそうだから。
キミは最初から元気なんだ。外で暮らすこともできるんだ。ただ、この実験施設に生まれて落ちてしまったが定め。この郭から出すことはできないよ。何度も伝えただろう?目を覚ましてくれ。
キミが抱く、世界に対する透明な想いを色づけたい。硝子や液晶越しの、パステル模様の絵空事ではなく。残酷で泥臭くて息苦しいまでの現実を、君の心に塗りたくりたい。
ねえ、顔を背けないで。キスでもしようか。大丈夫、ほら、今日は薬を咥えていないよ。
それとももう、経過観察に移るかい?ああ、そんなに暴れないで。痛い注射が必要になってしまうよ。
……驚いた。キミにそんな力が秘められていたんだね。どうして驚いているんだい、それは「チ」だよ。今朝も見ただろう、注射器の中のその色を。ほら、硝子が柔らかな手に食い込む前に、見せてごらん。
おっと、駄目駄目。こっちにおいで。その窓を越えても、あるのは暗いごみ置き場だよ。キミの「お姉さん」の骨や髪もまだ残っているかな。
大丈夫、キミは成功作だよ。……きっと。
さあ、キミの身体がもっともっと丈夫で美しくなるように、療養しないとね。心と体をしっかり休めることが大事だよ。さあ、おやすみの時間だ。
言い訳は聞かないよ?

それにしても最近、キミはいろいろなことを学びすぎてしまったみたいだね。現実を塗りすぎてしまったのかな。一度リセットして、真っ白な君に戻そうか。あの薬はどこにいったかな?
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