第15回300字SS「口笛」 お題:「夜」 ジャンル:和風ファンタジー ”夜に口笛を吹いてはいけないよ” うちはどっちだろう。 べそをかきながら、見知らぬあぜ道をとぼとぼ歩く。 提灯の明かりは見えず、蛙と鈴虫の大合唱も、ひとりぼっちの心を慰めてはくれない。 けろけろ、りんりん、ぴゅぅっ。 ふと聞こえた音に耳を澄ます。 人の出す音、懐かしい響き。 ぐしゃぐしゃの顔を上げ、口をとがらせ、懸命に同じリズムを吹き出す。 へたっぴな口笛が、やけに山に響いた。 ややあって返ってくる、同じリズム、同じ音。 兄ちゃんだ! 音の方向へ走りだす。 蛙の声はもう聞こえない。 目の前に立つ大きな黒い人影。兄ちゃん、兄ちゃん、会いたかった。 あれ?兄ちゃん? は、 去年、山で 毛むくじゃらの大きな手に、首根っこを掴まれた。 [目次] [小説TOP] 25 |