暗黒食物語。 今日は何だか浮ついているって? いやあ、夕飯が楽しみなんだ。嫁さんがとっておきの料理を作ってくれるってよ。 メインはヨーロッパから取り寄せた特別な人参だそうだ。猫の額ほどの家庭菜園で丹精込めて育てていたジャガイモは、青くて小粒でも愛情はたっぷり詰まっているはずさ。 あと、蓬餅にも挑戦するって、この前山奥まで摘みに行っていたな。 若妻が羨ましいか?ははは、君も早く身を固めたまえ。先月結婚したばかりの奴が大きな顔をするな?こりゃ一本取られた。 おっと、昼の薬を忘れていた。嫁が薬剤師だと、こういうところに厳しくて。 最近少しばかり、体の調子が悪くてね。歳かね、あちこちガタが出るよ。 嫁のためにも長生きしないとな。 * * * * * * * * * * あの人鈍いんだもの。今日こそ痺れさせるわ。 欧州育ちのドクニンジンは、ソクラテスの命を奪った由緒ある食材。 都会の庭じゃこんなもんだ、と納得してもらえるジャガイモは、青くて小粒でソラニンたっぷり。あら、芽が出てきたのね、尚の事好都合。刻んでお鍋に入れて、くつくつ煮込みましょう。あの人好みの辛口ルゥで味をつければきっとわからないわ。 さあ、この間に「蓬餅」づくり。念の為、手袋をしましょう。ああ、なんて綺麗な紫の花。仕事人間のあの人なら、葉だけ見せれば蓬と簡単に勘違い。 根も入れれば一撃ノックアウトでしょうけれど、……そうねぇ、牛蒡を蓬餅に入れてみたと言えば、信じてくれるかしら。 私にメロメロですもの、ね? [目次] [小説TOP] 15 |