当日執筆した初稿です。内容はほぼ一緒です。 ジュブナイル小説を読むのが、夏休みの楽しみだった 暑い夏の日差しを浴びながら、自転車を全力で漕く。いざ発進、俺号。目標は中央図書館。 両手に抱えきれないほどの本を選んで、カウンターに預ける。 顔なじみの司書のおばさんが、「いつもえらいねぇ」と破顔しながら本の裏を一冊一冊開いていく。貸出カードに日付と名前を書いて、戻す。5冊全部にそれを繰り返した後、返却日を押した藁半紙をくれる。 帰路もまた、アスファルトの熱帯だ。その中を走り抜け、家へと無事生還する。 日本間に手提げを投げ込む。手を洗って、冷蔵庫を開ける。扉の裏側には、牛乳の紙パックや麦茶のポットに並んで、白地に水玉模様の細長いボトル。 ちゃぷん、持ちあげて耳元でゆらし、残量を確認する。お姉のやつ、またたくさん飲んだな。 戸棚からグラスを出して、目いっぱいに氷を入れる。 ちょっとだけ力を込めて、きゅぽんと蓋を開ける。とくとくとく。おっと、これじゃ濃すぎるかもしれない。まあいいや。俺だってぜーたくしてやる。 水道水をそそぎ、からん、とひと混ぜ。スプーンに残ったひとしずくを口に運ぶ。うわぁ、やっぱり濃いや。水をもう少し。 まだきっと濃いであろうカルピスを片手に、日本間へ。縁側の外にはまぶしいほどの日差しが降り注いでいて、芝生も木々も白っぽく輝いて見える。蝉の声がうるさい。 さあ、待ちに待った時間だ。 ちゃぶ台にカルピスを乗せ、手提げ袋を漁ると、適当に一冊を引っ張り出す。おっと、下巻だった。仕方なしに手提げ袋を覗き、上巻を探す。宇宙服を着た少年少女が、電気の銃を持って、何やら奇妙な格好をした宇宙人と向かい合っている。 汗をかき始めたカルピスのグラスの横に下巻を置くと、上巻を手に、ごろり。畳の香りが鼻をくすぐる。 明かりのついていない電灯が、手を伸ばしても届かない遠くにある。あれは宇宙からの侵略者が乗ってきた宇宙船だ。ばきゅん、ばきゅん。本を胸に乗せ、指で拳銃を作ると、天に向かって撃つ真似をする。縁側から風が吹き込み、埃がひとひら落ちてきた。ぐあっ、攻撃だ。 ふと我に返ると、胸元の本を手に取る。電灯が隠れるよう、顔の上に両手で捧げ持つ。 さあ、冒険の始まりだ―― 「――長、社長」 扉を叩く音と、遠くから聞こえる声に、ふと引き戻される。手元の資料には、高級な万年筆で書かれたみみず文字。宇宙人が私の身体を乗っ取って、暗号を――いや、馬鹿馬鹿しい。 「社長」 「入ってくれ」 扉の奥からなおも聞こえる声に、資料のページを入れ替えながら応える。 「失礼いたします。出発のお時間です。資料はお目通しいただけましたでしょうか」 「ああ」 何とも億劫そうな、年老いた声だ。 「船の中で読む」 「……かしこまりました」 資料の束をいくつか重ね、茶封筒に詰める。パソコンと共に年季の入った鞄に突っ込むと、秘書が手を差し出してきた。重量のあるそれを、手渡す。 「今日の予定は」 「はい。本日はこの後、宇宙船で移動ののち、惑星A203にて会合。そのあとは再び宇宙船で――」 秘書が手帳を取り出し、つらつらと語りあげる声を、半分聞き流す。 宇宙人なんていなかった。 いたのは、地球を飛び出して惑星の開発を続け、自分たちの領土を広げていく人間ばかり。 いや、侵略しに来た宇宙人が、惑星の生態系から見た地球人だったのだろうか―― 「……社長?」 「ああ、済まない。行こう。……そうだ」 「はい」 「今日の船内食には、カルピスを用意させてくれ」 「……かしこまりました。ご準備いたします」 メーデー、メーデー、メーデー。こちらは私号、私号、私号。メーデー、私号。位置は銀河系の片隅の小惑星、そこに作られた都会のど真ん中。林立するビルのジャングルで遭難、自分を見失いかけている。すぐに救出されたし―― ふいに、そんな言葉が、頭をよぎった。 これがこうなりました→改定後(約3600字) [目次] [小説TOP] 1 |