「深夜の真剣物書き120分一本勝負」(公式様ついフィール)に参加させていただきました。 22:24〜90分程度で書きました。 お題: りんごあめ ダイアログ コーラ ジャンル:オリジナル おばあちゃんと坊や 3097文字 ○がつ××にち りかちゃんがあそびにきました。いつもえんがわからなのに、 ぴんぽーんとちゃいむがなったから、お父さんといっしょかなとおもったら はしごみたいなのにのぼっておしていました。 ひいばあちゃんにおせんこうをあげました。 それからめだかを見て、そしておまつりにいきました。 おばあちゃんがゆかたをよういしてくれた。りかちゃんは「わあい」といいました。 ぼくもきました。青いろのをきました。りかちゃんはももいろのをきました。 おまつりはたくさん人がいました。はなびがどーんとあがりました。きれいだった。 コーラをのみました。りんごあめもたべました。たのしかったです。 「おばあちゃん、書けたよ! 今日の日記!」 小さなちゃぶ台に向かっていた坊やが、ぺらり、と一枚の紙を頭の上へ掲げました。あたりには、クレヨンが散らばっています。 「おやおや、早かったねえ」 のれんの向こうから、おばあちゃんの声がしました。坊やは書き上げたばかりの日記をすぐにでも見せたくて、おばあちゃんのいる台所へ走っていこうとしましたが、立ち上がったところで足のびりびりに負けてしまいました。畳にしりもちをつくと、フローリングやコンクリートよりは痛くありませんでしたが、それでもお尻がずきずきしました。 「足が痛いよう」 「しびれてしまったかい」 足を伸ばして、両のてのひらでさする坊やのところへ、おばあちゃんがえっちらおっちらとやってきました。割烹着のポケットからまあるい眼鏡を取り出すと、まあるい顔にかけて、日記をしげしげと読み始めます。 「どれどれ、ふぅむ。たくさん書けたねえ」 おばあちゃんは、坊やに向かってにっこりと笑いました。坊やもにっこりと笑いました。おばあちゃんが笑ってくれると、坊やも嬉しいのです。 「おばあちゃん、『きゅうだいてん』?」 「ええ、ええ、『はなまる及第点』ですよ」 「やったあ!」 坊やはますます嬉しくなり、足がしびれていたのも忘れて、畳の上をぴょんぴょんと飛び跳ねました。おばあちゃんは、そんな元気な坊やを見て、ますますにっこりと笑いました。 「じゃあこれ、先生と、ママと、パパに送ってもいい?」 畳の部屋を一周した後、坊やはおばあちゃんの横に座りました。今度は体育座りです。半ズボンから、昼間転んで膝をすりむいたときに、おばあちゃんに貼ってもらった大きなガーゼが見えました。 「そうだねぇ、送りましょう。坊や、設定はできるかい」 「うん」 坊やがうなづくのを見て、おばあちゃんは隣の部屋に向かいました。その間に坊やは、クレヨンを片付け、自分のリュックサックから、学校で配られたプリントを引っ張り出しました。それから、お母さんが運んでくれた重たい荷物を開けて、日記より少し幅の広い機械を取り出しました。コンセントをつないで待っていると、おばあちゃんが、四半世紀近く前のではないかという、大きくて重そうなノートパソコンを持ってきました。 「こんな古くて動くかなあ」 「なんの、丈夫が取り柄のメーカー製ですよ」 おばあちゃんは、ちゃぶ台の上に、よいしょ、と言いながら、ノートパソコンを置きます。折りたたまれたノートパソコンの上には、埃がたくさんたまっています。坊やは持って来た機械からコードを引っ張り出し、ノートパソコンにつなごうと、ちゃぶ台の周りをくるくる回りました。 「おばあちゃん、これ、入らないよ。全部、差し口がちがう大きさだもの」 いろいろな差し口に差し込んでみては、どれもコードが刺さりません。坊やはおばあちゃんへ顔を向けると、首を振りました。 「困ったねえ」 おばあちゃんは、悲しそうな顔をしました。 その時、坊やは、お母さんに言われたことを思い出しました。もう一度荷物の中を探すと、古いパソコンと最新周辺機器をつなぐ、変換アダプタが見つかりました。 「よーし、これで大丈夫だ」 かちり。パソコンのスイッチを入れると、見たことのない起動画面が出てきました。かりかりかり、と音を立てながら、長い時間をかけて、パソコンが立ち上がります。 たくさんのアイコンが並んでいる中に、くるくると画像が入れ替わるスライドショーがありました。坊やが見たことのない人や、お母さんに似ている女の子が、数秒おきに流れてきます。 「おや、懐かしい写真だねえ」 おばあちゃんは画面をのぞき込むと、にっこりと笑いました。 「ふーん」 りかちゃんと似ている女の子と、お母さんと似ている女の子が、並んでいる写真が出てきました。もういちどふーんと言うと、坊やはブラウザのアイコンをクリックしました。スライドショーが、ブラウザに隠れんぼします。プリントと見比べっこをしながら、アドレスバーにURIを打ち込むと、データ共有サイトが表示されました。 「××小がっこうのページへようこそ。名まえをおしえてください」 ダイアログボックスが現れ、「ねん」「くみ」「名まえ」と入力するテキストボックスが、白く輝きます。 坊やが打ち込み終えて、「こんにちは」のボタンを押すと、もう一つテキストボックスが開きます。「ひみつの あいことばは?」ここには、夏休みに入る前に先生と決めた「あいことば」を打ち込みます。もっと前に使っていた「あいことば」は、もう使えないそうです。 「――くん、こんばんは。きょうもいちにち たのしかったですか。」 「あいことば」を送ると、先生からのメッセージが現れました。「はい」を押すと、花がブラウザの上からふってきました。 「しゅくだいを ていしゅつする」のボタンを押し、「にっき」を選びます。 「にっきを スキャンしてください」 メッセージボックスが現れたのを見て、坊やは機械を立ち上げます。ハンディスキャナで日記をなぞると、すぐに画面にプレビュー画像が現れました。 「にっきを ていしゅつしますか?」 迷わず「はい」を押すと、プレビュー画像が折りたたまれて、紙飛行機になりました。そのまま、ひゅーんと、画面の奥へ飛んでいきます。 「にっきを ていしゅつしました。 よくがんばりましたね」 ぱぱぱぱーん。ファンファーレが大きな音で鳴り響き、坊やはびっくりしました。 「おやおや、坊やには音量が大きかったねえ」 ずうっと横で、坊やがすることを眺めていたおばあちゃんが、急いで音量ボタンを操作します。 「おなじにっきを かぞくのひとにも おくりますか?」 次のダイアログボックスが現れ、坊やは「はい」を押しました。プレビュー画像が2つ、再び現れ、それぞれ紙飛行機になって画面の左右へ飛んでいきます。 「にっきを おくりました」 メッセージボックスが表示されたのを見て、おばあちゃんが、ほう、とため息をつきました。 「最近の技術はすごいんだねえ」 「おばあちゃんの頃には、こういうの、なかったの?」 「そうだねえ、スキャナとか、パソコンはもちろんあったけれど、星と星とをつなぐ技術はまだなかったからねえ」 おばあちゃんは、どこか懐かしそうに、天井を見上げました。坊やも真似をして見上げてみましたが、小さな蛾が電灯の周りを飛び回っている以外、何も見えませんでした。 「さあさ、日記も送れたし、そろそろ寝ましょうね」 「はあい」 坊やが隣の部屋に行くと、いつの間にか、布団が敷かれていました。どうやら、坊やが日記を書いているうちに、おばあちゃんが準備してくれていたようです。 坊やがふわふわの布団に寝っ転がると、甘いような埃っぽいような、なんだか不思議な香りがしました。おばあちゃんが電気を消し、蚊帳をかけます。 縁側の障子から、この惑星の衛星の、淡い明かりが差し込んできます。 「おやすみなさい」 「はいよ、おやすみなさい」 かすかな虫の合唱が、静かになった部屋に響きます。 [目次] [小説TOP] 18 |