第11回300字SS「雨を知らぬ娘たち」 お題:「雨」 ジャンル:オリジナル 2話につながりはありません。 300字ずつ 雨ってなぁに、と問うてくる娘に、はてどう答えたものかと思案を巡らせる。 地中深くから削り出した氷で星全体の水を補う我々は、日々の飲料水でさえ一苦労。無菌タンクに詰めて運んできた貴重な水は、今や産湯と末期の水にしか使えない。 考えあぐねた末、星の長老を訪ねる。雨を降らす術はないが、真似事ならできる、と。 家に帰ると支度をし、娘を銭湯へと連れていく。とんでもない料金を支払い、小さな浴槽へ。 腰ほどまでの湯を掬い、ビニール袋へ入れると、木串を刺す。 しゃわぁ。雫の下から覗く顔に笑みが広がった。 あったかいね、気持ちいいね。これが雨なんだ。 娘が地下氷の効率的な開発法と、人工降雨機を作り出すのは数十年後のおはなし。 雨とは如何なるものですか、と問うてくる娘に、はてどう答えたものかと思案を巡らせる。 外は雨季だ。メイドたちも、やれ洗濯物が乾かぬ、やれ通り雨に打たれたと愚痴を言う。やはり漏れ聞こえるものなのか。それともくだらぬ物語でその言葉を知ったのか。 何にせよ、娘には必要のない言葉、必要のない好奇心。明日にでも奪ってしまおう。 翌日も雨は降りやまない。娘の姿は部屋になかった。メイド全員に屋敷中を探し回らせる。果たして見つかったのは、大浴場。 ああ、お父様。わたくし、雨を知りましたわ。 笑みをこぼす娘の、それが最後の言葉になる。 ばちん。首元から煙が上がるのが見えた。 ああ、だから言ったのだ。人間にしか、水は扱えないと。 [目次] [小説TOP] 32 |