探検と見せかけて、ただの度胸試し。 Cast: 青丸様宅 紅太郎さん マイプル2様宅 才蔵さん そば猫様宅 クレーメンスさん るる様宅 デゥケーンさん 刻人様宅 エメロさん ジャック 鳥の鳴く声と、入り口から流れ込んで来るうだるような熱。 ジャックは、自分の家の中で、ぱちりと目を覚ました。仰向けの顔に、木漏れ日が屋根を透かして柔らかく差し込んでくる。 茣蓙から伝わってくるのはひんやりとした空気で、寝そべりながら土の香りとほんの少しの冷気を大きく吸い込んだ。 ―――今日は、どこに行こう。何をしよう。 暫く、頭の中でプランを考える。ある程度の算段が付いたところでひょいっと体を起こすと、家から顔を出した。森の中の空気はすでに湿気と熱を帯びている。 空は晴天、雲は少な目。蒸し暑くても、風は吹いている。何より、太陽ははつらつと輝いている。 「……探検日和”じゃない!”」 自分の算段に確証を得る。ぱぁっと表情を明るくして声に出すと、家から這い出た。ちょっと考えて頭だけ家にもぐると、宝物のクレヨンとブレスレットを甚平のポケットに詰めこむ。 沢山の人によって描かれた屋根をちらっと見遣ってから、ジャックは走り出した。 沢で顔を洗って、まず向かったのは。 「海だぁー!」 真っ白い砂浜には、誰の影もない。草履越しにでも伝わってくる焼けた砂の熱を感じながら、海岸を走り回る。 波と戯れ、カニを追いかけまわし、岩場から魚の群れを眺める。 一通り遊んだところで満足し、あたりをぐるりと見回すと、近くの崖に洞窟を見つけた。 「洞窟……!これは、えっと、みっしょん、……だ!」 目に入ってしまったら、もう彼を止めることはできない。闘牛のように、ジャックは猛ダッシュで洞窟へと向かっていく。 中からはひんやりとした空気が届く。ふと、中で、何かが動く気配がした。 「……えっ!?」 思わず声が漏れ、慌てて自分の口をふさぐ。何か出てくるのだろうか。熊か、狼か。恐る恐る覗き込み、影がそれ以上動かないのを感じ取り、ごくりと生唾を飲み込んだ。 「た、……たのもぉーーーー!」 腹をくくり、大声で、しかし若干腰が引けながら、ジャックは叫んだ。洞窟の中に声が反響する。 「うおぁっ!?」 「敵襲でござるか!?」 中から二人の、人間の声が聞こえた。ジャックは思わず、背筋を凍らせる。 「あ、あれ……”やばくない”……」 逃げようと思ったが、肝心な時に足がすくんで動かない。そうこうしているうちに、一つの影が飛び出してきた。 「……おい。今叫んだの、お前か」 不機嫌そうな声を発しながら、二本の角に甚平を着た青年が姿を見せた。寝起きだろうか、険悪な表情をその顔に浮かべている。紅い瞳でじろりと見下ろされ、ジャックはすくみ上った。その金色の髪の上から、ひょっこりと小さな影が顔を出す。 「おや、紅殿と同じ、鬼の子でござるな。知り合いでござるか」 針を剣のように構えた小さな人が、青年の頭の上で飛び跳ねる。 「才蔵、ちょっと黙れ。……さてお前、逃げないとはいい度胸だな」 散々説教を受けた後、ジャックは悄然とした足取りでと北へと向かっていた。 才蔵と呼ばれていた人物が執り成してくれたため、頭ごなしではなかったものの、焼けた砂の上での正座は少々堪えた。 出端はくじかれたが、一日はまだこれからだ。そう気を取り直し、森を北上する。 途中の丘で、見た事のある影を見かけた。二本の角と、細い尻尾、腰から吊るした鞄。 「あ、……包丁のあにじゃ」 木の陰から、じっと見つめる。以前出会った時、彼はなんでも切れるという包丁を持っていると教えてくれた。包丁、という器具に憧れたのと、丁度その時釣ったばかりの魚をさばいてみたかったのとで、駄目元で使ってみたいといったのだ。 駄目と言われてつい意地を張ってしまったが…… 「……包丁、いつか”借りたくない”もんねー!」 後ろから叫ぶだけ叫んで、相手が振り返る前に全速力で逃げ出した。 そのまま足取りは山へと向かう。今から休み休み向かえば、昼過ぎにはあの古城に着くはずだ。 もいだ木の実を齧りながら考える。 キヴィーあねじゃは、夜はあの”でっかくない”もふもふは、人間になって一緒に遊んでくれると言っていた。 けれど先日―――その話を聞く前には、夜中に行ったはずなのに、あのような大きな獣と遭遇した。 だから、一人で確かめようと思った。 昼間に行ってみたら、どうなるのだろう。――― 「うわぁぁぁぁぁ!やっぱり"いない"ぃぃぃぃ!」 古城の廊下に、子供の悲鳴が響いた。寝台に横たわるその姿を見た瞬間全速力で逃げだしたつもりだったが、角を曲がる辺りで追いつかれた。 「また喰われに来たのか」 「く、”喰われたい”!”噛め”!”離すな”ぁぁ!うわぁぁん、違うー!」 この間のように首根っこをがっしりと掴まれ、逃げようともがく。だがそれよりも強く、デゥケーンの大きな腕と手のひらに押さえつけられた。 「うわぁぁぁん!”喰って”ぇぇ!」 ―――キヴィーあねじゃは、こいつがいい奴って言ってたけど、絶対嘘だ! ぐったりと疲れ切った体で、森の中をとぼとぼと歩く。 「うー……」 軽く噛まれた頭が痛い。玄関から放り出された時に、尻餅もついた。体中を撫でさすりながら歩いているうちに、一軒の家を見つけた。細い煙突から、煙が上がっている。広い森の中で、まだ見た事のない家だった。 途端に元気と好奇心が舞い戻ってくる。窓から覗き込むと、中に大きな竈が見えた。 「おお……何だこの家……」 きらきらとした金色の目が、家の内部をきょろきょろと見回す。しかし明らかに人の庭に不法侵入をしていることには、残念ながら気づけなかった。 ジャックが家主に捕まり、家の隅に置かれた斧や巨大な竈に恐れをなしながら、あれこれとこき使われるまで、あと少し。 8/1、第6回ワンドロ参加作品。お題に『探検』をお借りしました。 ほかありき【外歩き】外出。そとへ出歩くこと。(学研全訳古語辞典より) [目次] [はじまりの街 案内板](小説TOP) |