| ハグの日(8/9)のお話。 Cast: みそ様宅 フックさん ima様宅 リクさん シャトー 街外れの路地に、煌々と点る灯りが一つ。 小ぢんまりとした料理屋の扉が、からんと開いた。中から出てきたのは、長身長髪の女性と、女性より少し小さな猫耳の男。追いかけるように、もう一つの影が現れた。 「ご馳走になりました」 「ご馳走さん、うまかったぜ」 「毎度ありぃ!いやぁ、いい飲みっぷり食べっぷりで嬉しかったよ。また来てくれよなっ」 店主のリクがわざわざカウンターを出て、見送りに来てくれた。わざわざご丁寧に、とひとしきり感謝の口上を述べた後、シャトーとフックはリクの料理店を後にした。後ろから、またなーと元気な声がかかる。振り返って一礼をしたり、手を上げたりと簡単な挨拶を交わすと、広場につながる大通りへと足を向けた。 「芋料理ばっかりだったけれど、料理も酒も旨かったな。こんな街外れに、料理屋があるなんて知らなかったぜ」 「ふむ、確かに。たまには街をぶらついてみるのも、面白いものだな」 上質な酒が入り、けらけらと楽しげに笑う彼女の姿に、シャトーはちらりと目線を送る。二人の仕事が終わってから、他の用事があって街外れまで来ていたのだが、新たな店を開拓できたのは予定外の収穫だった。 夏の夜の涼風が通りを吹き抜け、肩マントと袖のないコートをそれぞれそよがせる。 「んー、いい風だな」 フックが、両腕を高く掲げて伸びをした。横に並んで歩きながら、シャトーも息を深く吸い込む。 「そうだな。この辺りは風がよく通るし、森に近いからか涼しい。過ごしやすそうだ」 「ああ、そうだな」 本能的な直感だが、風の通り道や、過ごしやすい場所を見つけるのは存外得意だ。軽い会話を交わした後、再び左隣へと視線を送る。 「ん?どうした?」 「……いや」 シャトーは視線を通りに向けて、小さく苦笑する。 「普段と違う酒場だと、帰り道に一緒に歩く時間ができるのだな、と思って、な」 「あー……確かに」 「久しいな。……君がドレスアップして来てくれた、あの日以来か?」 「……るせ」 行きつけの酒場の上にシャトーが宿を借りているため、必然的に酒場の扉を出たところで別れることになる。愛しい女性の背を見送るばかりの身の上としては、今日のように夜道をともに歩くというのは、なんとなく新鮮なのだ。 「フック、今日の宿はどこだ?送ろう」 周りの目を気にしながらのシャトーの言葉に、フックが宿の場所を口にする。 昼間互いの身にあったことやこれからの予定などを取り交わしながら、気づけば彼女の宿の前まで来ていた。先ほどまであった人通りも絶え、星明りと家々の玄関灯だけが小さく周囲を照らしている。 「送ってくれてありがとよ。……また明日な」 頬を掻きながら、フックが小さくつぶやいた。それをまっすぐに見つめて、ふ、と小さく笑った後、シャトーは一歩前へと踏み込んだ。 両腕いっぱいに、彼女を抱きしめる。 「ああ、……また明日。ジェンナ」 そう、彼女の首元でささやいた。 彼女より小さいこの背では、包み込むように抱きしめることはできないけれど。 背伸びをしても仕方がないと、最近はそう思えるようになった。 少しだけ体を離し、再びフックと視線を合わせる。宿の玄関灯に照らされた彼女の頬は、ほんのりと赤くなっていた。自分の瞳も、熱を持って見えているのだろうか。 どちらからともなく、「おやすみ」と口にする。そうして、互いの頬に小さく口付を。 「ゆっくり休んでくれ」 「……お前も、な」 軽く言葉を交わした後、宿の中へと入っていくフックの背を見送る。見送る側というのは、どうしてこうも切ないのだろう。一抹の寂しさを感じながら、シャトーは踵を返した。 夜風が肩のマントをなびかせる。 「……少し、遠回りして帰るか」 ぽつりと呟いた声は、それに込められた熱とともに、宙に溶けて行った。 シャトーの一番最初のおはなし『その記憶は』と終わり方が似ているのは気のせいではありません。 [目次] [はじまりの街 案内板](小説TOP) |