けたたましく不穏で、不快で、恐怖を煽る「戦い」の音だった。
ヴァイスは夢現にその音を聞いた。意識が浮上してきた時にはその音が誰のものか今自分の周りがどのような状況か悟る事ができたけれど、決して瞼は持ち上げなかった。のしかかる疲労を言い訳に、今彼を見たらなんて言っていいかわからない己の不甲斐なさに蓋をして必死に微睡みの中に留まろうとした。

ハントは襲いかかる魔獣に銃を向け、乱射という表現がぴったりなめちゃくちゃな戦いをした。
ただその弾の行方は逸れることなく確実に相手を仕留めていく。時に体術で敵を蹴り飛ばし投げ倒し、銃身で薙ぎ倒した。
それは一瞬の出来事のようだった。
魔獣が黒い煙を上げ無に還る。ハントはその真ん中に立ってふうと息をついた。もーいーよ。かくれんぼのお決まりのセリフを空々しく放つ。
それで漸くヴァイスは解き放たれたように肩の力を抜き瞼を持ち上げた。何時の間にか自分の体を抱くように、横になり肩を掴んで眠っていたようだ。目を開ければハントの汚れた靴先が見えた。
ヴァイスが眠りに落ちる前までは木漏れ日のさす芝生だった。それが見るに耐えない状況に一変しておりヴァイスは目覚めたことを後悔した。また寝て起きたとき元通りになっているなんて幻想が実在するならそうしたかった。

そう考えていたら向かう先のわからぬ感情がふつふつと湧き上がってくる。石像だってそうだ、わざと敵を呼び寄せたのもヴァイスには不可解でしかない。なんの生産性のない戦闘をしたがっているとしか思えないのだ。その餌にされた、点と点が線になった時いつまでも起き上がってこない彼を不思議がって差し伸べていた手をぱしんと払い落とした。

「あなたは!」

行き場のないハントの手は血がかすれて伸びていた。自分の服で拭いたのだろうがそんな気遣いは今は全く無意味で的外れで。立ち上がるヴァイスの勢いに埃が舞う。

「全くもって不可解です!その銃の腕は、培ったきた強さはこんなところで無駄撃ちするような安いものですか?戦闘狂も良いとこですよ」
「あー、悪い」
「安眠妨害ですし、環境破壊ですし」
「獅子奮迅って感じ?」

息を吸って呆れたように竦めた肩を降ろすのとともに盛大に吐き出す。

ヴァイスはきっとハントを睨みつける。彼は学者肌とでも言うのか理解のできぬものに対し不快感を覚えるきらいがあった。特に軍人に対する疑問は理解しようとしても、当事者の仲間たちは彼に理解させようとしてくれない。理解出来ないとはなから教える気もないような態度は更にヴァイスを苛立たせた。

「そんなもの、捨ててしまえばいいものを」

言わばいつもの売り言葉に買い言葉だった。
戦闘にも関わらず目を瞑っていた自分、仲間を恐ろしく感じた自分、不可解なことに八つ当たりをする自分、苛立っていることに苛立っていたのだろう。
ハントのクリスタル銃に視線を送ってそう言い放った。ハントは軽口を叩くと思った。それはヴァイスがひとり興奮している時のハントの常の対応だったからだ。

それが今回は違う。
ハントの纏う空気が一変し、いきなりヴァイスの胸倉を掴んだのだ。ロナードたちのように体が仕上がっていないヴァイスに、今まで一度だって手を上げたことのない彼がである。
くしゃくしゃにタンクトップがたくし上がる。嫌悪で燃え上がりそうな瞳で見据えられ冷や汗が背中を伝う。

ハントは何も言わなかった。暫くしてヴァイスから乱暴に手を離す。情けなくもヴァイスは尻餅をついて地面に手を付いた。
それから迎えの船がくるまで一言も話さなかったどころかハントの姿は見かけなかった。しかし船が着く時間になると何処からか現れ何事もなかったようにへらりと笑いヴァイスの隣に立つのだからヴァイスはもう何が何やらわけがわからない。


「あ…」

声をかけようとした。
掠れていたが声は届いていたと思う。それなのに振り返りもせず、背中は完全にヴァイスを拒否していた。

自分が悪いことを言った、らしい、ことはわかるけれどそれが彼の心にどんな傷をつけたのかがわからない。なのでどうフォローをしたらいいかもわからず、ひとり調査の結果をまとめると言い部屋に篭るのだった。



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