collision



失念していた。いや、安心していた。勿論信頼していたから。
この船に乗り合わせた人々は目的は同じてあっても立場の違う、思考思想の違う仲間たちであるということを。軍人と一括りにしたって模範生のレイナスとあのロナードはまったく違う人物だ。それが出身も今まで過ごしてきた時間も違う人物なら、なおさら。

ハントは軍人というより戦士だった。
ここ数日の不眠症の理由は誰も気付けなかったのも無理はない。「平和だから寝れない」とよくわからぬことを宣い、皆が活動する昼間のラウンジで堂々と仮眠していた。人のいるところで熟睡することが出来ない彼のことだからそれでも疲労は蓄積していった。
平和に伴う不眠はハントを確実に蝕んでいた。細やかな戦闘がひとつでもあればよかったのかもしれない。魔獣を追い払うくらいでよかったのだ。それが何故か平穏な航海が続き、くたびれた雑巾のようになっていくハントを気遣い部屋に押し込めた途端に魔獣が襲ってくる。ハントは戦わせろ!と部屋で暴れていた。その暴れ方もいつもの彼らしからぬもので皆不安になった。なおのこと休息をと彼を戦闘から遠ざけて…それが寝るために必要であったと皆が気づいていたら、あんな惨事起こらなかったのかもしれない。
後悔しても遅いハントとロナードの衝突、それからヴァイスの孤立は、それも彼らが「違う」と言うことをすっかり忘れていたから起きたように思う。

ハントは戦士だった。
標的が見えない期間が何より恐ろしかった。
ロナードは軍人だった。
しかし上司は言う。あいつには大事なものが欠けていると。ヴァイスも同意の意を込めて大きく頷く。

「ロナードさんは自分の価値をわかっていない。軍人たるもの冷静に自分が部隊でどんな役割が出来るか判断すべきです。自己の客観的評価をもって。それが彼の場合、自分はあたかも「違う」もしくは「無価値」としています。過信か無意味な謙遜か。いずれにせよ不適切な自己評価で省みずに単身突っ込んでいく。それがもう、理解を超えます。わかりたくもない」

ヴァイスは学者だった。
考えることがなにより大切で、考えることはすべての糸口であるはずだった。

だがここにいる仲間は彼の考える時間を与えず、また、考えても仕方ないような男たちで、ヴァイスは溜め息では留まらずに、彼に手を出してしまう。

とにもかくにもこうしてハントはロナードの首を掴んだ。
銃を突きつけられたが撃たれなかったのは不幸中の幸いだった。
訓練されたワンパターンな戦い方ではない、身をもって学んだその体術はロナードを苦しめた。

(本当に、失念していた)

ロナードは酸素が薄くなり霞んでいく頭で思い、笑った。こんな時に、笑いたくなった。
不眠解決にと取った行動、己の浅はかさ。自分もなったことがある同じ症状に、懐かしさを感じたか。仲間意識を持ったか。「同じ」状況だなんてどうして思ってしまっただろう。

ロナードは記憶を手放すその刹那、すまない、と口だけ動かした。
ハントに、迷惑をかけたライに、怖がらせた彼女らに、そしてきっと、自分のことだからこれから苛立たせることは間違いない彼に対して。
真っ暗な空間で、ハントの軽口に混ぜた棘のある言い方で「俺の謝罪を取るなよ」と、いつもの冷たい声でヴァイスが「そう言うところが嫌いです」と聞こえた気がした。
気がした。
そうはっきり言って、笑って欲しかったのかもしれない。何かあっても最後には仲間と笑い合いたいと思うロナードは、確かに軍人の気質だった。



(その2 いまさら)

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