8 仲間の絆


全ての種明かしをされ、酷く落ち込んだのはドモラだった。
いつもならおかわりをしすぎてレイラに怒られるような大食漢なのだが、この日の夕食は全く喉を通らなかった。若干の罪の意識を抱いたレイラが夫の大好物を作ったというのに。

「ドモラさんかわいそ…」

ラナが呟く。そりゃそうだろ、とハントが煮物を箸にさして持ち上げる。

「嘘の事件の調査を依頼され、犯人は仲間にいると言われ、妻には隠し事され疑われ、部下には出し抜かれ。ショックで禿げちまうぜ」
「ハント、食べ物突き刺さないでお行儀悪い!」
「ニアちゃんごめーん」

ぱくりと口に放り込む。味が染みていてとても美味しいものだった。こんなものが食べられないとは、ハントは少しドモラに同情した。

ドモラは軍の上層部から武器の流出事件の話をされ、犯人がどうやらベルンハイムの船に乗っているドモラの仲間の中にいる、それしか考えられないと言われた。だから、全員を出動させる作戦を立てて裏切り者を探せと言われた。心優しいドモラは裏切り者を探すなんて口が裂けても言えなくて、毎晩悩み続けていたという。勘のいい仲間たちだ、上層部からの指示だったあのアラの目立つ突入作戦に文句を言われるだろうと、どう切り抜けようと考えていた。
そんな中、いつもだったらドモラの作戦に真っ先に食いつくレイラが何も言わなかった。ヴァイスも妙に突入部隊に固執した。レイナスの動きも怪しかった。そう考えると皆が怪しく思えてきてそうやって仲間を疑う自分が嫌で、犯人は別にいる、絶対にこの手で捕まえてやるとひとり決意したドモラはとにかく他の者たちが疑い合ったりしないように、おかしなことを考えないように「仲間を裏切るな」と言い続けていたのだ。

「で、レイラさんはどこまで知ってたんだ?」
「だから、私はその事件が嘘だと教えられていた。てっきりドモラも知っているものだと思ったんだ。だから裏の作戦を聞き出そうと問い詰めたんだが…本当に何も知らなかったんだな」

部屋にこもってしまったドモラように食事をトレイに取り分けていたレイラは、頬に手を添えため息をつく。レイラはかつて所属していた軍部の人間を通じその話が来たという。この事件は嘘だから、みんなが余計なことをしようとしたら止めてくれ、とにかく突入作戦を実行させてくれと。

「とりあえず全員が嘘の事件だと気づいていたんだな」
「ドモラさんだけが真剣に事件解決に苦心していたんですね…可哀そうに」
「ちょっと運んでくる」

髪をまとめたレイラがトレイを持って退席する。珍しく落ち込んだ様子の彼女に、夫婦でゆっくり話してこいとハントが言った。

「で、ライとザードが探偵ごっこをして…」
「ねぇ、結局ハントが依頼されたこと、知らないんだけど」

え?と全員が動きを止めた。

「もしかし、て?」
「ハントも…?」

ハントは大袈裟にはぁ、と息を吐いた。
面倒そうに半分瞼を閉じた顔で、ヴァイスを指さす。

「お前んとこの王様、どーにかしろよ」
「王が、なにか?」

ハントの言う王は間違いなくセントミラの国王のことだろう。
ヴァイスはセントミラ国王に仲間の絆を確かめろと言われたが、ハントのことはちっとも話題に上がっていない。

「お前、もし仲間の絆が確認できなかったらどうしてたか、王は言ってたか?」
「いいえ…」
「ヴァイスをセントミラに連れ戻すってさ。過保護だよなぁ。んで、まず俺んとこに話が来たの。ヴァイスがちゃんとやれてるか心配だから調査してこいと。もー、ね。ふざけんなって話よ。んな暇ねぇし、俺たちの絆を疑ってんのかって。だから断ったんだけど、まさかヴァイスさん本人が引き受けちゃうとはねぇ」
「すみません。面白そうだったので、つい」

ついじゃねぇよ、とザードとハントとロナードからツッコミが入る。
それに対しすみませんと心をこめずに返事をする。心の中では、引き受けなかったということはあぁ見えてハントは確かめる必要なんてないくらい仲間の絆を確信してるということだろうか、と考えていた。
良いとこあるじゃないか、と。

「ベルンハイムと話していたというのは…」
「あぁ。あれは事情を全て伝えたんですよ。今回の一件がなければ事件を自分で引き起こすつもりでしたので」
「あーよかった、今回の事件があってホントよかった」

物騒なヴァイスの言葉にロボットのようにハントが言った。



「なに不満げな顔してんだよ」

レイナスは夕食の済ませたラウンジで、ひとりミルザフルーツをフォークで突き刺す親友に声をかけた。ロナードは半眼で睨み、フォークで向かいの席を差す。無言の圧力に苦笑いを浮かべレイナスは着席した。

「お前はカイゼル国王はから「仲間の絆を確認しろ」と指示された」
「そうだよ」
「嘘の事件が起こるから、仲間たちが事件解決という目標に向かって本当に協力できているのか調査しろと」
「あぁ。今回はみんなが勘ぐりすぎてこんがらがったけどね」

結果として報告した通りだよとレイナスが言う。
仲間たちは協力連携し、自分の役割を全うした。その結果目的を果たした。
カイゼル国王はその言葉に引き締めていた表情を和らげた。港まで見送りに行ったレイナスとロナードに安心した、と呟いた。深い一言だった。

「俺たちも試されてるんだな」
「それだけ期待されているということだろう」

ざく、ざくとフォークを差す手は止まらない。
まだ何かため込んでいるな、とレイナスは肘をついた。

「良いよ、全部言えよ。確かに今回は仲間に隠し事をした俺に非がある」
「…任務上の約束は何だったんだ」
「誰にも本当の目的を告げないこと。もうひとつが、全員が戦闘に参加すること」
「それでヴァイスともめたのか」
「まさかヴァイスが同じことをしてるとは思わなかったよ」

そこをロナードと戦わせることで無理やり乗り越えた。とばっちりを食ったロナードはもう何も言う気が起きなかった。
果実は赤い果汁を皿いっぱいに流して、原形をとどめていない。

「どうすんだソレ」
「ニアにジュースにしてもらう」

だからほっといてくれと言わんばかりにまだ気味の悪い行為を続けるロナードは、どう見てもふてくされている。こうなると長引くのだ。長年の付き合いで勝手知ったるレイナスはごめんってと手を合わせロナードの顔を覗き込んだ。

「機嫌なおしてくれよ」
「…嘘をついた」
「へ?」
「俺に嘘をついただろう」

彼の不機嫌の理由はそこにあった。親友に嘘をつかれたと、拗ねた子どものような目をロナードは向ける。レイナスは顎に手を当てた。どうにかうまいこと核心に触れられるのを交わしていたが、嘘をついた覚えはないのだ。

「え?いつ?」
「ヴァイスが怪しいと言う前。俺の勘は当たっていた」

風呂から上がったらしいハントが、まだお前ら引きずってんのと呆れたように言い通り過ぎて行った。

レイナスは遠くを見つめ記憶を手繰り寄せる。そして行き着いた心当たりに、あーと声を上げ

「なんとなく」

と言った。そういえばロナードのよく当たる勘がレイナスの隠し事を当てた時があった。その時確か、仲間に誓いを捧げた気がする。
でも、とよくよく思い出しレイナスは指を一本立てた。

「嘘ついてないってやっぱり」
「嘘だ」
「ホントだ。だってロナードは隠し事をしていないかと言った。俺はしていると言った。それは「誰が怪しいかがわかった」って言ったんだ。覚えてる?」
「あぁ、それでヴァイスだと言った」
「間違っちゃいないだろ」
「他にも隠し事をしていた」
「俺は「仲間に誓って犯人じゃない」と言った。これだって本当だ」
「そうだろうか」
「横流しの犯人じゃなかったろ」

レイナスは親友の手からフォークをとり、皿ごと引き下げた。
腑に落ちないと頬を膨らませたロナードが言った。

「悪かったな。今度うまいものおごるって」
「軍服の新しいので手を打つ」
「うげぇ…」

顔をゆがめるレイナスを見て、不細工だと言ってようやく笑った。
少し気が晴れて、席を立ち体を伸ばす。ドモラほどではないにしろ、自分も結構落ち込んでいたのだと気がついた。やはり隠し事されるのは気分が良くない。

「こんなこと、どうしてしたんだ?」

レイナスがヴァイスと同じく面白いという理由で引き受けはしないだろう。真面目な性格だ、依頼が来た時点でこんな作戦はおかしいと突っかかるくらいはするだろう。
解せないという表情を向けていると、レイナスは眉を吊り上げ腰に手を当てた。幼い風貌がその仕草によって更に際立つのだが、それを言うと本当に怒るので黙っておく。

「だって、断ろうとしたら「自分たちの絆に自信がないのか」なんて言うんだぜ?俺あったまきちゃってさ!」
「そんな事だろうと思った」

今回は国王のほうが一枚上手だったようだ。
しかし、引き受けた理由が疑っているのではなく信頼してるからだったことに満足し、軍服の上着だけで勘弁してやろうと思ったロナードだった。

隣でなんだか楽しそうにしているロナードを見、首をかしげる。
ロナードはなんでもないと言って親友の頭をわしわしとかき混ぜる。

「これからも、仲間を裏切るなよ。レイナス」
「当たり前だろ。お前もなロナード」

だから軍服でもなんでも買ってやるよ!と腕まくりする親友に、声をあげて笑った。




























































































































/
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -