7 黒幕登場


店内には縛りあげられた沢山の男たち。殺さず生かせ、事情聴取があるからとそのように注文をつけたのはドモラだった。仲間たちは、そのことからもこれが嘘の事件だとわかってしまった。

ニアとドモラが大量の武器を2階から運び出す。全てがカイゼルシュルト軍に支給されているものだ。

「で、種明かしはまだか」

いらついた様子でロナードがレイナスに詰め寄る。
ロナードはいつもどおりの表情であるが、仲間の姉妹による施術でも治せないボロボロになった軍服や疲労感たっぷりと言ったオーラがヴァイスとの戦闘の過酷さを物語っていた。大剣を振るいにくい狭い室内で、魔法の先制攻撃によって接近戦を封じられていたらしい。ヴァイスはと言うとすっきりとした顔をしている。
ストレス発散に使われた身にもなれとロナードがぼやいた。レイナスは苦笑して肩をたたく。

「俺からは何も」
「隠し事が多すぎんじゃねぇの」

ハントが首を鳴らした。ライもいぶかしげにレイナスとヴァイスを見つめる。
ドモラが一歩前に進む。ふたりの名を呼ぼうとした時だった。
こつ、と靴音がひとつして室内の空気がきんと張り詰める。縛られている男どもの表情がこわばる。振り向いていないのに、顔も見ていないのに後ろに感じる気配が背筋を冷たくした。ザードが異変を察知した野生動物のようにぶるぶるっと小刻みに体を震わせ、勢いよく振り返った。

「あ?」

立っていた初老の男性に一旦首を傾げたものの、あ!と声を上げる。思わず差した指をすかさず隣にいたロナードに腕を掴まれ下げられた。ついでに頭を押され屈まされる。そのロナードは驚きと困惑の表情で喚くザードを抑えたまま頭を下げる。
ライがすぐに膝をつき、ドモラが敬礼をした。レイラも後ろでそれに倣う。

「あなたは…」
「カイゼル国王さま?」

ニアが胸に手を当てお辞儀をする。ラナも驚きながらスカートの裾をつまむ仕草をした。いつもより簡素な服装をした国王は頷くと掌を見せる。皆がお辞儀から顔を上げる。
ハントは予想していたのか軽く会釈をしそっぽを向いた。

「レイナス・シルバーロード、報告を」
「はっ」

固い敬礼を解き、一歩前へ歩み出た。レイナスの規律正しい動きは、真面目な性格を表しているようだった。心なしか捕えられている男たちが有名人を見るような輝く瞳で彼を見上げている。

「今回の事件において戦闘に全員参加し、皆自分の役割を果たしました。我々は時に助け合いアジトの制圧という目的を遂行いたしました」
「ふむ…」

国王がぐるりと室内を見回した。

「やはり数は多くとも空の英雄たちには敵わんか」

愉しげに目を細める。男たちは顔を伏せた。
予測はしてたがどうやらここ言いる男たちはれっきとしたカイゼルシュルトの軍人だったようだ。減給だな、冗談めかした国王の言葉に一斉にため息が漏れる。
と、いてもたってもいられず国王!とドモラが口を開く。カイゼル国王は心底嫌そうな顔をした。

「お前の話は後で聞く。話すと長いんだお前は…」
「しかし、私は聞いていませんぞ!」
「そりゃあそうだレイナスにしか言っておらん。と、時にロナード・ナイトスター」

しっしとドモラを追い払う仕草をする。
唐突に名を呼ばれたロナードは短い返事を返し、国王の方を向いた。国王の見定めるような視線に背筋を伸ばす。後頭部にレイナスの視線が痛いくらいぶつかってくる。
余計なことを言うなとでも言いたいのか。だが事情を知らないロナードには何が余計で何を言っていいのかなんてわからない。それなのにびしびしと感じる視線に舌打ちをしたくなった。

「何故そんなに服が傷んでいるのだ。多少の負傷はあるにしろ他の者はそんなに酷くはないが」
「これは…」

助け船は張本人に求めることにした。
ちらりとヴァイスを見る。わかっているというように歩み出て、彼は腕組みを解いて恭しくお辞儀をした。

「お久しぶりです、カイゼル国王」
「おぉ、雷光のヴァイスか」
「国王、彼の衣服がぼろぼろなのは私と一戦交えたからなのです」
「詳しく聴こう」
「ロナードさんは私が怪しいと思い、戦わざるを得ない状況になったのです。仲間とはいえ疑わしい者は確かめ、いかなる時も全力で戦うという彼の姿勢は評価に値します」

ロナードさんは誰よりも仲間のことを思っています。
最後にそう締めくくって頭を下げた。
国王はそうかと納得したように言い

「では今回の作戦は成功だ。これからも世界のために戦ってくれ」
「ありがたきお言葉」

お辞儀から顔を上げたレイナスはふうと大きく肩で息をした。

「それで、ヴァイスは何故ロナードと戦うことになったんじゃ」
「それは、私があなたがレイナスさんに命じたのと同じことを任命されていたからですよ」

カイゼル国王はそれだけで理解がいったようで、そうかそうかとうなづいた。
理解ができていないのは彼ら以外の仲間たちである。
どういうことと首をかしげるライに、ザードは先ほどから展開についていけず頭を抱えている。それを見てヴァイスが笑って肩をすくめて見せた。国王がもう話してもいいぞと言い、レイナスが肩の荷が下りたと言って頬を緩ませた。

「実は私はセントミラ王からとある依頼を受けていたのです」
「セントミラぁ!?」

もうついていけねぇ。ザードがしゃがみこむ。

「皆さんにわかるように全てネタばらししましょう。私が受けていた依頼は「仲間たちの絆を確かめること」です。今更と言えば今更ですが仲間を裏切る者はいないか、連携はできているか…それを確かめろと。だから私は機会を伺っていました。全員が参加するような事件が起きることを。また、この任務には条件が一つありました。それは「私は敵と戦ってはいけない」ということ。私が欠けた戦闘で他の仲間たちの動きを知りたかったのでしょうね」
「だからか…でも、ロナードと戦ったのは良いのか?」
「敵ではありませんからね」

ヴァイスは笑顔だった。話は終わりと掌を挙げる。
敵でないなら手加減してくれと呟く誰かの声は全員が聞こえないふりをした。













































































































































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