5 援護班


「さみぃ…」

ザードは鼻をすすって、茂みの中に隠れていた。
潜入班が店内に入って1時間弱。野党がザードの見張る裏口から出てくる気配はない。ラナはロナードと一緒にアジトの周りを偵察に行っている。
突入まであと少し。このままうまくいけばアジトはレイナスたちに占拠され、流出した武器も確保、万事解決。しかしその裏で、この短い時間の間別の計画が動いているのだという。それを突き止めなければ、本当の解決とはいかない。

ザードは裏口を親の敵のような形相で見つめている。
きっと、誰も出てこないのだろうけど。

「んー、意味あんのかな」
「何が?」
「ん?裏口を見張ってさ…って、ラナ!」

いつの間にか隣にしゃがんでたラナを見、驚くザードに彼女はしぃと口に指を当てて見せた。煩いよ、ラナが小声で言った。

「悪ぃ。お前ロナードと一緒じゃ…」
「ロナードが戻れって言うから」
「ロナードは今どこに?」
「反対側じゃない?表のほう」

まさか、と思い立ちザードが立ち上がる。それは時計に針があらかじめ定めていた時間を差した時だった。
寒いねぇと話かけるラナの言葉を遮りザードが走りだす。

「ラナここは頼んだ!」
「ちょっと!」

振り返らずにザードは走っていく。疑ってるんじゃない。信じているから、確かめに行くんだ。



騒ぎに乗じて室内にもぐりこんだが、やはり何かがおかしかった。
違和感を感じるくらい多い人数。野党の戦い方も、それなりに訓練を受けたかのような強さと正確さが根底にあるような気がした。それはロナードが軍人だからわかることだった。
ロナードはフロアの中心を見る。ニアたちの姿はない。うまく2階に行ったのだろう。

「ロナード!」

声に振りかえると走ってきたらしいザードが立っていた。
何故ここに?と疑問を抱え少し首を傾げる。ザードは息を切らし、肩が上下に揺れている。

「お前ややこしいことすん、なよ……って!!」

そして、ロナードは怒りをあらわにするザードに向かい、剣を抜いた。
ザードは目を丸くし、へ、だか、はっだか喉の奥から声にならない声を上げた。
躊躇うことなく、ロナードはザードの首元に向かい真横に、一閃。

「うおあ!」

ザードの立てた髪を何本か犠牲にし、しゃがむことによってその太刀筋を避けた。そしてしゃがんだ姿勢のままくるりと向きを変え、背後に向かって足払いを仕掛ける。ロナードの大剣を細い短剣で受け止めていた野党の男が、どさりと尻もちをついた。ロナードの剣を受け止めたのだ。もう腕に力は残っていないのだろう。
ロナードは癖なのか一度剣を振り払う仕草をして、背に担いだ。
ザードの腕を掴み引き上げる。死ぬかと思ったんですけど、という少年の言葉は綺麗に聞き流しておいた。

「それよりザード、何をしに来た」
「それはこっちのセリフだよ。ロナード、こんなことしてると疑われるぞ」
「お前だってそうだろう。と、いうかなんで今日はそんなに俺を監視するんだ」
「あ、バレてた?」
「ばればれだ」

穏やかな世間話をしているようなふたりだが、その間にも襲いかかる野党を次々となぎ倒している。ザードが大男の懐に入り拳を叩きつける横でロナードも剣を振るっていた。よく見ると刃とは反対側で戦い、敵を気絶させていた。

「なんで?」

ロナードは長い足で回し蹴りを披露する。

「たぶん、殺すほどのことではない」
「それは、勘?」
「そうだ」

ザードはさすが、と言って笑った。

ふと、ロナードが視線を巡らせる。
誰かを探しているようだった。

「レイナス?」
「いいや」
「ヴァイスか?」

今度は返事をしなかったので、きっとヴァイスを探しているのだろうと思った。
ザードも室内に目を向けるもあの目立つ銀髪は探し出せなかった。
そういえば魔法の光や雷もしばらく見ていない。

「疑っているのか」
「いや…」
「なぁ。武器の流出事件、あれ嘘だろ」

ザードは肘を敵の顔面にめり込ませる。倒れた男の懐を漁ると、一般的なカイゼルシュルト兵が持つような拳銃と、腰に短剣が差してあった。ロナードは瞬きを二回すると、どうして、と頼りなく言う。
ザードはライの推測を伝えながら、このいとこ同士は些細な仕草がよく似ているなぁと緊張感なくぼんやりと思った。

「…やはり、そうか。なら、納得がいかないんだ。レイナスが何を隠しているのか、ヴァイスが何をしたいのかが」
「あのふたりが怪しいんだな」
「あぁ。俺に言った言葉の意味も」
「言葉?」

ロナードは首を縦に振った。
かがんで、床に落ちた短剣を拾う。一般兵だった時に、自分も持たされていたかもしれないそれはなんだか懐かしく、軽くて現実味がなかった。

「仲間だけは裏切るな、と」
「…それ、ロナードも俺に言ったじゃん」
「あぁ。誰が裏で何をしているかわからなかったんだ。お前にも釘を刺しておこうとな」

わずかにロナードは頬を緩める。
ザードは口を尖らせた。

「俺は誰も裏切ったことなんてない。お前もだろ、ロナード」

ロナードはまっすぐにザードの視線を受け止める。

「もちろんだ。仲間に誓って」

ザードは幼く、歯を見せて笑った。ロナードのその言葉が聞けただけで十分だった。

「なら、いーや!じゃあ後は任せた!俺はラナが心配だから戻る。こっちのことはロナードに託すよ。ライも中にいるし、大丈夫だろ」
「わかった」
「レイナスかヴァイスかわかんねぇけど、くだらない計画をしてるようだったらがつんとやっちまえ!」

拳を掲げて見せると、ロナードも笑って拳を握って見せた。
じゃあ、と外に戻ろうとしたザードが、あ、と足を止める。

「でも、今までのこと全部が嘘で、ロナードが俺を騙してたんなら、ただじゃおかねぇからな」

ロナードは背中を向け、立ち止まらずに言った。
仲間は決して裏切らないと。
その言葉と頼れる大きな背中に、ザードはうなづいてラナの待つ裏口へと走って行った。
























































































































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