4 潜入班


潜入班はニアとレイラとドモラだ。遊びに来た夫婦と妻の妹、という設定だ。
普段よりも綺麗な格好をした3人はそれぞれ三者三様の表情を浮かべている。

厳しい表情で口を引き結ぶドモラ。
余裕を通り越し緊張感の感じられないレイラは長く伸ばした髪をいじっている。
そして緊張で固くなっているニアは使命の炎を目に宿している。

「…なぁんか不安だな」

三人を見比べ、目を細めたハントが耳を掻いた。
ごほん、とドモラが咳払いをする。

「では潜入班、行ってくる。他2班は計画通り配置について、時刻になったら突入してくれ」
「まぁ大丈夫だ。気負わず来てくれ」

レイラが肩越しに手を振ってニアの手を引きさっさと船から降りて行った。
引っ張られて行くニアが振り返って、強い瞳でうなづいていた。誰向かっての合図かはザードだけが知っている。

レイラの後をドモラがあわてて追いかける。その背に規定時刻まで船に残るメンバーがやる気なく手を振った。静かになるデッキでザードがこめかみに手を当てた。

「…なぁ、なんかみんなやる気なくね?」
「そうか?」

レイナスが笑顔で振り返る。
うーんと伸びをして船内に帰っていく。頑張ろうなとザードの肩に手を置いた。

何かがおかしい。けれど裏に隠された計画はわからない。
と、今度はハントが話しかけてきた。

「そりゃやる気もなくなるだろ。ここにいるほぼ全員が横流しは嘘の事件だってわかってんだからさ」
「え、あ、そうなのか?」
「あぁ。でもなんでこんな大掛かりなことになってんのかがわかんね。だからみんな今度はそっちの、本当の計画の探りに躍起になってんの」
「そうか…」
「ま、油断をすんなよ」

ザード、私たちも配置につきに行こう。ラナが呼びに来た。
隣にはロナードが無表情で立っている。

「…なにか気になるのか?」

ザードはぶんぶんと顔を横に振ってロボットのようにぎくしゃくとした足取りで進んでいった。

「なにあれ、ザードったら足と手が一緒に出てるよ?」
「嘘のつけないやつだな…」



アジトとなっているバーは落ち着いた雰囲気だが狭い空間に結構な人数がいて、騒がしい。カウンターで話し込む者、大声で話す者、奥ではダーツを楽しむ者がいる。そして2階に繋がる階段の手前ではガタイの良い男がふたりあからさまに通せんぼをしているというように立ちふさがっている。

「どう思う?ニア」

レイラは透明なカクテルの入ったグラスを傾けながら至極愉快そうにニアに問いかける。

「ここに本当に横流しされた武器があるか、否か」

ドモラがびくりと大きな体を揺らす。

「どう思う?」
「…作戦を立てるときと同じで、2階にあると思います。階段を重点的に守ってるみたいだし」
「まぁ、そうだろうな。でも私が聞きたいのはそこじゃないんだ。ニア、ここに「横流しされた武器」があると思うか?」

レイラはゆっくりと言い聞かすようにして喋る。
彼女の言わんとしていることは、きっとニアがライに伝えられたことと同じことだろう。それを言っていいのかニアが逡巡していると、ゆっくりとグラスの中の酒を飲み、ドモラが口を開いた。

「レイラ」
「ふん、私に隠し事をしようなんて100年早いわ」

勝ち誇ったような彼の妻は項垂れるドモラの背中をたたく。ニアだけが展開についていけずきょろきょろと顔を見ている。
レイラがそれに気づき、にこりと笑いかけた。もう秘密にしなくていいぞ、とも言った。

「そ、それは」
「ライのやつになにか吹き込まれただろう?」
「うぅ…」
「それよりレイラお前は何を知っている?」
「何を、だと?ドモラ、お前こそ何を隠しているんだ」
「隠しているだと?隠し事をしているのはそっちのほ」

本格的に始まりそうな夫婦喧嘩に慌てていると、表が騒がしくなり激しい爆発音とともに仲間たちの姿が現れた。突入班のお出ましだな、レイラが口を弧にする。
店内は一気に騒がしくなる。

「話は後だ」

ドモラがふたりを席から立たせる。ドモラが階段にいる男を殴り、ニアがその間をかいくぐり階段に足をかける。

「レイラ!」

と、階段に上ったふたりと下のフロアとの前に火の壁が出来、思わずニアは顔をそむけた。叫ぶドモラに、壁の向こうから呑気なレイラの声がする。

「あ〜敵が追ってくるのを防ごうとして間違えて私がこちら側に残ってしまった。うっかりだ。仕方ない、お前たちだけで武器を捜してくれ」
「わざとだろうお前!」「レイラさん!」

ライから皆を監視しろと言われていたにも関わらずレイラを離してしまった。ニアが火の中に手を伸ばそうとしてドモラに掴まれる。目の前に恐ろしいドモラの顔が迫り、うっと思わず身を引いた。

「お前まで勝手な真似はさせん!」
「すいませんしませんっ!」

2階から下りてくる野党の男共をなぎ倒しつつ階段を駆け上る。

「もう、わしにはなにがなにやらわからん…ニア、お前も何か隠しているのか」
「げ、元気出して少佐。大丈夫よ、誰も裏切ったりしてないから…」

肩を落とすドモラの巨体を支えつつ、たぶん、と小さな声で付け加えた。



「レイラさん、どうして」
「ライ。お前こそこそと何をしていた?」
「…なんのことです?」

ライが眉を吊り上げる。

「この事件の裏に、何が隠されている?ニアに何を言った」
「確かにニアに言いました。仲間を監視しろと。でもそれは私もこの事件の裏を探るためです。レイラさんこそ…誰よりも先にこの事件が嘘だと気づいていたようだった。何を、知っているんです?」
「…私を疑っているのか」

しゃらん、と円月輪の鎖が金属音を立てる。
背後に炎の壁があり、それはレイラの怒りを代弁しているようだった。いくつもの戦いをかいくぐってきたライも恐怖を感じ、唾を飲み込む。
レイラも退役したとはいえ名の知れた軍人だった。長距離戦を得意とする攻撃魔法と円月輪の使い手。対するライも誰しも恐れる特殊部隊兵だ。一撃必殺の暗殺に長けた人物。

向かい合うふたりの間に緊張が走る。

「おふたりさん、そこまで。だ」

間にきらめくクリスタル銃の銃身が割って入る。
続いて長身の男が姿を現し、場にそぐわない緊張感のない声。殺気を隠そうともしないライの頭をぐいと押し、これまた臨戦態勢のレイラに銃を向けた。
ち、と舌打ちをしレイラが円月輪を下ろす。
ライも構えていたナイフをホルダーに仕舞った。

「な、きっとここにいる3人は同じ情報…いや、正確には憶測か。同じ推理をしているはずだ。共有しようぜ」

ハントが銃を下げた。
ようやく向かい合っていたふたりの女性もふうと息をつき、ライは申し訳なさそうに眉を下げる。レイラはそっぽを向き頭を掻いた。

「武器の横流しは嘘。そうだろ?」

ハントが掌を向ける。レイラがそっけなく答える。

「あぁ。それについては私が直接軍にいたころの仲間から依頼があった」
「依頼?レイラさんに?」
「今度、嘘の事件を起こすから、迷惑をかけると。それから、誰にも嘘だと知らせないでくれと」
「それだけか?」

追求をするハントの目に、レイラは敬礼をする。

「誓って」
「ライは?」
「私は何も知らなかった。でもどう考えてもおかしいから、ニアとザードに監視を頼んだの。裏の計画が何で誰が企んでいるのか知りたかったから」
「それだけか?」

ライもレイラと同じく敬礼をして見せた。
ニアがずっと疑いの目を向けていたのはそれだからか、レイラは合点がいったようにうなづいた。

「お前はどうなんだハント」
「俺も知らねぇよ。でも天下のカイゼルさんがこんな間抜けな事件起こさないだろ?だからおっかしいなーって」
「それだけ?」
「あぁ。ライのように調査もしなかった。興味無かったからな。…でも、関係ないんだが実は最近、俺は俺で別の依頼があったんだよな。国から」
「国って、プテリュクス?」

ハントは首を振る。もうひとつの、と言う彼の言葉にセントミラかとレイラが呟いた。
ハントがぱちんと指を鳴らす。

「俺的には、それと同じようなことをあいつらがやってんじゃねぇかと…」
「それは一体なんなの?」
「その前に、質問」
「なんだ」
「レイラ、お前なんにも関係がないにしてはそーとーご立腹だったようだが、なんでだ?」

レイラはハントの質問にむっと唇を尖らせた。
だって、と言い淀むその姿はいつもの彼女よりも幼く見える。

「ライがニアを唆したせいで疑って見てくるだろう?そうしたらドモラが、私が何か知ってるんじゃないかって疑ってきたんだ。それにドモラだって何か知ってるはずなのに言わないなんて。妻に隠し事をするなんて!妻を疑うだなんて!」
「隠し事って、レイラさんだって口止めされてたんだから隠し事してたじゃないの…」
「はぁー…ごっそさんです」

さて、ということはやっぱり残りの突入班の面々が怪しいなと、ハントは背後で戦闘を続けるふたりの青年を振り返る。
たったふたり何十人もの男を相手に引けを取らない、むしろ優位に戦闘をしている。つくづく敵に回したくないなぁと思い、ハントは苦笑した。

























































































































































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