2 決行前夜


「気乗りしないなぁ」

明日作戦決行だとドモラに伝えられた。レイナスは自室に親友を迎え前夜祭と称して酒を飲んでいた。レイナスは先ほどからぶつぶつと文句を垂れ流し、琥珀色の酒をのどに流し込んでいる。そんなに飲んで明日大丈夫なのかと、ロナードはそっとボトルをレイナスの手から遠ざけた。

「そもそも軍部も何を考えているんだか。俺たちが裏切り行為なんてするわけないだろ。命かけて世界のために」
「レイナス」
「なんだいロナード」
「隠し事をしていないか?」

持ち上げたグラスの中で氷が解けて涼やかな音を鳴らす。しばし黙った後、レイナスは目を伏せた。

「どうして?」
「勘だ」

ロナードはいたって真面目に言ってのけた。レイナスはお前の勘が良く当たるのは俺が一番知っていると薄く笑う。長い沈黙の間ロナードは彼を急かすことはしなかった。

「バレたのなら仕方ないね」

顔を上げたレイナスはあの人の良さそうな笑顔。ではお前が、と口を開いたロナードを掌を見せ制する。それからゆっくりと両手を肩の位置まで挙げた。

「でも俺は、武器の横流しはしていない。これは本当。俺が隠しているのは、誰が怪しいかがわかった、ってことだけ」
「何故それを隠す」
「当然のことだ。仲間を疑いたくない。信じたくなかったんだよ」

ロナードは視線をそらした。自分も親友を疑った人間であるし何も言えずにいるとレイナスがそのままの笑顔で手招きをする。ロナードが顔を寄せると少しアルコールの匂う吐息で仲間の名を告げた。ロナードは、表情を変えない。


数時間前―――

作戦を告げる。
ドモラはラウンジのテーブルに野党がいるというアジトの見取り図を広げた。
すかさず厳しい表情のヴァイスがそれを指さす。

「どこから入手したのですか?」
「うちの軍からだ。前回突入した時アジトの居場所はつかんでいる」

間取りはいたって普通のバーのようだった。1階は広いフロアにバーカウンターがあり、キッチン、従業員の事務所。それから2階に上がる階段があり、2階にきっと武器が隠してあるだろうとのこと。
そこで、とドモラが皆を見回す。

「作戦を立てた」

潜入班、バーの客に扮し潜入する。突入班の騒ぎに乗じて武器の保有の事実を確認する。
突入班、野党と徹底交戦する。陽動、撹乱、戦意喪失をさせる。
援護班、アジトを取り囲むようにし待機。ターゲットの逃走を防ぎ、また仲間の救護に当たる。

ドモラは指を折りながら話す。まるで訓練を受けているように感じ、ハントはあくびをひとつ、ヴァイスは興味深そうにうなづいていた。

「その振り分けなのだが…」

ニアとレイラがまず潜入班として名が挙がる。女性なら相手も油断するだろう。
と、ここでヴァイスが手を挙げた。

「私は突入班を希望します」
「そうか?わしはヴァイスは援護についてもらおうかと…」
「いいえ、突入班で」

にっこりと微笑まれると何も言えない。レイラのいいんじゃないかという言葉もありヴァイスは突入班に決定した。

「俺、俺も突入班!」
「いや、ザードは…そうだな、潜入班をお願いできんか?」

へ?と皆が目を丸くした。
それからのドモラの配置も不思議なものだった。
その性格から突入班だと思われたザードが援護班だったし(誰もが待機できるのかと不安になった)、常に単独行動のライが突入班に選ばれた。

「えぇと、てことは…」
「突入班はレイナスさん、私ヴァイス、ライさん、それからハント」
「おい嫌そうな顔すんなヴァイス」
「潜入班が私とレイラさんとドモラさん」
「援護班は俺と、ラナと…本当に良いのか?ロナード」
「あぁ、お前たちのお守が必要だろ」

じゃあこれで、と会議は解散したが最後まですっきりしない気分だ。
ザードは納得いかないように終始頭をかいていたし、ライは眉根を寄せていた。かと思えばヴァイスは満足そうに笑っていたし、レイナスも自信に満ちていたように思える。ロナードはやっぱり無表情で、レイラもドモラの不思議な人選に口を挟むことはなかった。ハントは無関心そうで、もう何が何やら。
身の潔白を晴らすんじゃなかったのかよ、ザードは親指の爪を噛む。と、廊下の先に腕組をした女性を見つけた。いつも結っている長い髪を下ろしているのは、仕事でないからだろうか。ライ、と声をかけると、彼女は目線だけであたりを見回し手招きをした。

「え、な、」
「しっ、」

彼女は口元に指を立てる。ライは静かに自室の扉をあける。
来い、ともう一度手招きをした。

「どうしたんだ?」

声をひそめるザードに、ライは

「探偵ごっこよ。ザードくん?」

その赤い唇は弧を描いている。



「どうしてそう思った?」
「さっきのの班わけ。突入班に固執してた。おかしいと思ったんだ」
「まぁな」
「それにあの不思議なメンバー、ああいう作戦にいつも真っ先に噛みつくだろ」
「確かに。しかしそれに異を唱えなかったのはほかの皆もだ。それだけで怪しいとは言い切れない」
「それがさ、俺聞いたんだよね」
「何を」
「船長と話してるの。『俺に迷惑かけなきゃ良い』って船長あきれた感じで」

とっておきの情報に、さすがのロナードも苦い顔をし口元に手を当てた。
まさか、―――ヴァイスが。

「しかし俺の勘では、まだ何か隠されている気がする」

気のせいさ、レイナスが言い酒を注ぐ。
グラスを掲げると無理やりロナードにも持たせた。こちらを見てくる彼の目がまだ疑いの拭えていない目だったので、レイナスは困ったように笑って

「誓うよ。俺は犯人じゃない」
「何に誓うんだ」
「そうだなぁ」

がちん、とグラスの底をぶつけ合った。

「素晴らしき仲間に誓って」

レイナスは酒を一気し、とろりとした表情で、緩んだ頬で言った。

「ロナード、『決して仲間を裏切るな』よ」

ひとり言のようにこぼれた言葉に、自分の勘があたっている気がしてならない。
不安を消すためにも、彼にならって酒を胃袋に流し込んだ。


































































































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