「もしも世界が終わるとしたら」

背後から投げ掛けられる言葉に、ロナードはすまない、と声を張り上げた。

「すまない、もう一度」
「ですから」

相手は気を悪くした風もなく、むしろ楽しげな明るい声色で同じことを言った。

「もしも世界が終わるとしたら、明日」
「明日?」
「えぇ」

自分の後ろにいる青年の表情は見えない。しかしロナードにはいつもの彼の涼やかな笑顔を思い浮かべることが出来た。

「貴方ならどうやって過ごしますか」

セリフの終わりに大きな雷鳴が轟く。
びかびかと光るそれにログが怯む。その隙に何体かまとめて一閃をお見舞いした。

「それは、なんだ。どういう意味で聞いているんだ」

辺りに敵が居なくなったのでようやくロナードは振り返る。するとまだばちばちと弾ける雷の中ヴァイスが顔だけこちらに向けた。やはり、笑っている。

ログに襲撃されたセントミラの街。そこで彼らはたったふたりぽっちで戦い続けていた。明らかに、無謀。
だがそれは別の場所で戦っている仲間のためでもあった。自分たちはここで散ったとしても構わないから、どうか世界を。
「よくそういう例えばの話、あるじゃないですか」

決して穏やかな会話をしている場合ではないが、ヴァイスはいつものように話かけてくる。ロナードはあたりを見渡しながらあぁと返事をした。

「多い答えは普段通り過ごすだとか好きな相手と一緒にいるとか。皆、そんな幸せな最後を想像します」
「そうだな」
「でも、私たちにとってそんな話、悪い冗談にしかなりませんね」

ロナードもようやく口元を緩める。
そんなもしも、だなんて平和の中生きている人間が空想することだ。自分たちのように戦いに身を投じていればそれはもしもでも例えばでもない。万が一、うっかり、で自分たちの明日はなくなる。そして自分たちが破れればそんなどこかの誰かの想像通り「世界が終わる」ことになったっておかしくはないのだ。

それこそ今日、だって。

「俺たちは明日世界が終わるとしたら、いつものように戦っているのだろうな」
「えぇ、大事な仲間と」

あれ、これって幸せなことじゃあありません?
小首を傾げるヴァイスの目がにやりと細められた。ロナードはため息をついてふざけたことをと手を振る。

と、感じる殺気。ロナードが鋭い視線を寄越す。ヴァイスも真剣な表情で、

「…ともかく、私の言いたかったことは」

ヴァイスが背を向けた。

「もしも明日世界が終わるとしたら」

ロナードが大剣を構える。
ふたりのを取り囲むようにログが近づき、ヴァイスは半歩ロナードの背中に近づいた。

「…終わるとしたら?」

ロナードが肩越しにヴァイスを振り返れば、彼は一気に緊張を解いて嬉しそうにこう言ったのだ。

「…世界はそんなに早く終わってはくれなそうですが」

見れば懐かしい仲間がこちらに向かって走ってくる。先頭を行く緑の髪の少年がふたりの名前を叫んだ。

「…そうだな。それで何を言おうと思ったんだ?」
「さぁ?まぁ、答えはわかりきっているのでもう良いです」
「なんなんだ一体。気になるだろう」
「ふふ、ご自分でお考えになってください」

砂ぼこりの立ち込める街並み。綺麗だったあの国が一瞬にしてこんなになるなんて。だが、世界はまだ終わらない。終わらせない。

(もしも、明日世界が終わるならば…か)

そんなこと、続く思いはひとつしかない。ロナードは彼への答えとばかりにその鋭い刃を敵にお見舞いした。



ワールド・エンド


―――そんな明日が来ないように、共に戦ってくれますか?

モドル

















































































































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