効果絶大

レイナスは目を覚ました。日は高く登っている。少し寝すぎたようだ。
おはようございますとテントに入ってきた若い兵士が苦笑する。
「何度か起こしたのですが」
「ああうん。いいよ、いつものことだから」
兵士は目を丸くした。
ぼさぼさ頭を撫で付けるレイナスに、その間に攻め込まれたらどうするんですと兵士は強い口調で問うたが、危険を察知したら即座に起きることが出来るのも彼の特技である。
「そりゃ起きるよ。軍人なら当然でしょ?」
軽く笑い飛ばすレイナスの性格の奥深さにはまだ理解が追いつかないようで、兵士は瞬きをした。

外に出てみると、空が頭上に広がっていて距離を感じる。いつも通り青い。
良い天気だった。快晴だが、雲は良い塩梅に広がっていて眩しさや暑さは感じない。心地良い天気だ。
たまたま通りかかった浮島で、カイゼルシュルトの小隊が野営をしていた。いつかの戦争の痕が残る島で、復興作業を任された者たちだ。
レイナスは自身の経験から僅かな間だけその者たちに指導をしたのだが、その的確さと人の良さから頼りにされあと数日だけいて欲しいと、兵士らに捕まってしまったのだった。
エアベルンも補給に帰る途中だったため、彼ひとり残しまた迎えに来るとさっさと行ってしまって、レイナスはもやもやしながらも仕事を受けた。
島での数日は穏やかで、住民の少ない島では復興と言っても殆どが村民と会話をしているようなものだった。あとは自然の手入れをし、倒壊した建物の撤去と新しい建物の建造を細々とやり、そろそろ船も迎えに来る頃だろう。

レイナスは突っ立ったまま静かで穏やかな風を感じた。
いつか、こうやって過ごせる日が来るのかもしれない。何かと戦うのではなく、新たなものを作り心安らかに暮らせる日が。
「何を考えておられるのですか?」
兵士が背筋を伸ばして彼の背後に立つ。
振り返らずにレイナスは言った。
「船に帰りたいなぁって」
「すみません、隊員たちや島民までも残って欲しいなんてわがままを」
「いや、不満とかじゃなくてね」
兵士に向き合った彼は頬をかいて取り繕うように眉を下げた。
兵士は真っ直ぐな瞳で彼を見上げる。
その優しさと心の強さを感じる瞳は、彼女に似ていると思ってレイナスは嬉しくなった。
「仲間がいる、絆がある。それって幸せなことだと思っていただけだよ」
「そうですか」
「ここの隊員も仲が良いね。戦災復興という仕事に真っ向から向き合ってて人々の声もしっかり聞いてる。素晴らしいよ」
兵士は有難きお言葉と敬礼を返す。
その頬はほんのりと朱に染まっていた。
「共に進んでいける仲間を大切にするんだよ。あと…心の支えとなる人も、ね」

レイナスはこの島に来てもう何度彼女の名前を心の中で呼んだかわからない。
たった二文字の短くてすぐに消え入る単語を、弾むように呟く。
そんなことで胸は熱くなって、ため息が出る。ああ、会いたいなぁなにをしてるのかなぁ、そんな考えが頭いっぱいに広がるけれど辛くはない。彼女の名前は、思い出す笑顔は、力を湧き起こす魔法の言葉にレイナスは感じていた。

「えっ…と」
どう返したものか、兵士は逡巡した。
レイナスはなんてねと誤魔化しになっていない誤魔化しをして、テントに戻る。
その背中を見送って、空を見上げた兵士はレイナスとは違う気持ちで同じ空を見つめた。
ほんの少しだけ感傷に浸って、素っ気なく縛った髪をほどいて、また結び治す。
ぱちんと頬を叩いて、笑顔で歩きだした。
きっと彼女にとっても彼の名前は魔法の言葉で、今は彼かもしれないが、そのうちに更に強力な魔法の言葉に出会うのだろう。



モドル











































































































































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