笑顔の采配


普段から無鉄砲にも思える勇敢さで敵に立ち向かう(というより飛び込んで行く)ロナードの戦法を、心配するなという方が難しい話だ。治療を請け負うニアを中心にヴァイス、ベルンハイム、それにハントまでも加わって、彼をしばらくの間前線に出さないという策を立て始めた。
彼を良く知るカイゼル軍の面々、それからエルディアで共に過ごしたザードとラナは不安とはまた違う感情を抱いていたようだったが、ロナードが深手を負わないならそれに越したことはないと特に口を挟むことはしなかった。
しかし、当の本人であるロナードには迷惑な話で、険しい表情で勝手なことをするなと詰め寄った。
「お前のデスパレート戦法は勝手じゃないってのか」
ハントは怯むことなく向かい合う。ロナードは僅かに眉を動かした。散々指示に従わない、勝手な行動ばかりと上官や親友に言われ続けている。ほんの少しだけ罪悪感を覚える。
「だからって俺だけ休戦してなんになる。その間にやられたって知らないからな」
「丁度良いのでザードくんの新技開発レベル上げさせてもらいますー」
ロナードがいれば戦闘は早く終わるが、ロナードがいなければ困るような仲間たちではなかった。ロナードは奥歯を噛みしめる。
ハントやヴァイスだけなら適当に言いくるめるか実力行使のところだが、その奥に控えるニアの目が怖い。しかも現在誰にも言わずに何度目かわからぬ大きな傷を負っているロナードのことを、彼女は誰に言いふらすこともなく耐える表情で治療してくれているのだ。
頭が上がらない、同時に肩も上がらない。傷は深かった。
ならば休みを言い渡されるのも仕方ないことかもしれない。だが悔しかった。
これを機に戦闘スタイルを改めさせようとさせる彼女に恐ろしさと憎しみまで抱いてしまう。
「まぁとりあえず、ロナードの位置に誰を配置しようか」
その場を取り繕うようにレイナスが言った。明るい声だった。
ロナードは現在レイナスとツートップの形で前列にいる。
ザードは内心自分だろうなと思いつつ、椅子に座って足をぶらつかせた。先程からニアが上機嫌な笑顔なのだ、彼の経験上こういう時は黙っているが吉である。
「そうね、ハントなんてどう?」
ニアは人差し指を頬に当てながら言う。レイナスはぱちぱちと瞬きをした。ロナードは更に渋い顔になった。
「ニアちゃんの意見なら俺は引き受けるぜ?でもなぁ」
ちらりとザードに視線をやる。その時だった。
ふん、と馬鹿にしたような笑い声にハントの目が細められる。
「ハントは後ろでいいだろ。タイムラグがある。魔力充填してる隙に刺されたらおしまいだしな」
レイナスはこっそりニアを見た。やっちゃったなぁと苦笑いを交えた視線がかち合うと思ったのだが、予想に反して彼女は穏やかにふたりのやり取りを見ている。
「ああ?あのな、俺はアレ以外にも技もってんのよ、色々。
お前こそ行動遅い癖に一撃必殺狙い過ぎなんだよ。ミスしたら終わりだな」
「ミスをするか。お前は撃ち損なったら死ぬな」
「撃ち損なうかよ!俺を誰だと」
「なんとかスナイパーだろ?」
「てっめぇ表出ろ!」
「ふたりともやめてください!」
ヴァイスが間に割って入る。
ハントは鬼の形相で振り返るとニアやレイナスに自分がそのポジションにつくことを訴えた。
「でもロナードの言うことも一理あるわね。それにやっぱりハントには後方支援してほしいもの」
だから、ヴァイスなんてどう?そうニアは首を傾げる。
はぁ!?と声を上げたのは三人同時だった。
「ニアさん?一体なにを考えて…」
「ニアちゃん、こいつにはムリだって。体力なさすぎだし」
「そうだ。自分の身も守れないのになるもんじゃない」
「それ、あなたが言います!?」
なるほど、大体の展開は読めて来た。ザードはあくびをひとつする。
ヴァイスはすっかりヒートアップしてハントとロナードに立ち向かっている。すっかり他の面々の事を忘れてしまっているようだ。
ニアはにこにこと笑みを湛えたまま、手のひらをうった。
ぱん、と甲高い歯切れの良い音に三人はぴたりと止まる。そして並んでニアを見た。
「そうだ。前衛はザードにしない?そもそもザードを鍛えようって話も出てたことだし。それから三人は戦闘に出ないでその時の戦いを見てどこが悪かった意見してほしいな。今まで客観的に意見を言ってくれる人っていなかったじゃない?それってすごく大切だと思うのよね。三人抜けた状況でパーティがどう動くかって気になるところよねぇ」
聞き取りやすい穏やかな声だった。しかしいつもより早口で、何者にも邪魔をさせないという意志が感じられた。三人はぐっと押し黙る。
実は負傷しているのはロナードだけではなかった。先の戦闘でロナードを庇い腰を痛めたハントは、年齢的なこともあり内心不安がってニアにこっそりと相談していた。
ヴァイスは学者としての仕事も休まず行っていたためここの所寝不足であり、それをニアに感づかれていたのだ。
それぞれの事情をニアは他の人に言うことはなかった。
「あー、ニアちゃん」
「なぁに?」
「…なんでもありません」
役割を言い渡されそれなりに聞こえるような理由を塗りたくられ、これを単純に休めと言い渡されるよりかえって胸にくるものがある。
すいません、と心の中で謝って三人はがくりと頭を垂らした。
先程まで言い争っていたのに、彼らの胸の内はお前もか、と慰め合う気持ちでいっぱいだった。
ニアは上機嫌である。しかしその笑顔には般若の面が隠されている。ザードとレイナスは顔を見合わせ、怖っと口に出さず言った。
「…ふむ、誰も傷つけず、察知されることなく、本人に精神的ダメージを与え反省させながら、休ませる…なかなか参謀としての素質があるかもしれん」
レイラが大真面目に頷いた。


モドル























































































































































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