四季折々 | ナノ

不意に照らす、その姿




『夕方、一緒に行きたいところがあるから準備していて』

彼から突然の誘いに浮かれるのも無理はない。多少は夏独特の浮かれた気分のせいかもしれないけれど、まあ、たまにはそんな風に流されるのも良いものだ。

普段は行きたいところを話し合って計画を立てるところからが乾くんとのデートだが、時々こうやって行き先も何も分からぬまま連れて行かれることもある。これはこれで楽しくて好きなのでそろそろ来ないかな、なんて期待をしてしまう自分もいたりする。


◯◎◯◎


まだ少し日光が反射する道を並んで歩いた先には海が見えた。以前に朝日を見に行こうなんて言って早朝に訪れたことがある場所だ。同じ場所でも違う時間だと空気まで違うように感じる。

「今日の天気がベストだったから急に誘ってしまったけれど、なまえの表情を見ていたら一緒に見られて良かったと思ったよ」

私を見つめて穏やかに微笑む乾くんを燃えるようなオレンジ色が照らす。幻想的な彼の姿は写真に残したいくらいに美しくて目が眩みそうな気さえする。

「まだ夕日は見たことなかったし、また乾くんとここに来れたのがすごく嬉しい。普段よりなんだか……乾くん綺麗だし」
「なまえのほうがよっぽど綺麗だと思うけれど、褒め言葉はありがたく受け取っておくよ」

夕日に近付きたくて手を繋いで海のほうへと歩く。少し手汗を感じる私を包み込むような手も、無意識のうちに合わせてくれている歩幅も、少し見上げると目に入る楽しそうな表情も、普段の何倍も綺麗でずっと見ていたいのは、美しい景色のせいだけではないはず。

絡めた指で手の甲をゆっくり撫でる仕草がまだ少しぎこちないところはいつも通り。普段以上の美しさも、普段と同じ愛おしい仕草も、夕日のように姿を変える海と同様に心が踊るものだ。


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