降りそそぐのは
彼の誕生日に特別何かをしようとは思わない。普段からやりたいことはできるだけ一緒にやろうと心がけているからその必要がない、というだけのことだけれども。
昼食を二人で作っている間に雨足は少し落ち着いたようで、プレートに乗ったパンを口に運びながらこの後のことを話す。
「小雨くらいだし外に出ない?雨の日の散歩もたまには楽しそう」
「さっきまで雨強すぎ、てるてる坊主何個作ろうと言っていたとは思えない発言だね」
「てるてる坊主は作るよ。でも新しい傘も使いたいから」
梅雨はあまり好きではない。それでも自分なりに楽しめたらと傘を新調したのが最近のこと。大雨に打たれてしまう前に新しい傘で雨を楽しまないと梅雨の間は憂鬱なままになってしまう。
昼食を食べ終えて並んで片付けをしながら彼から傘のことを尋ねられる。開いてから楽しんで欲しくてまだ内緒、とだけ告げた。
「それでは開きます」
乾くんの視線が向けられるのを確認してからゆっくりと傘を開く。ブルーの美しいグラデーションが姿を現す。
「その傘はクラゲがモチーフになっているんだね」
「乾くん大正解です。 見つけた瞬間に一目惚れしちゃった」
「なまえを好きになった時の俺と同じだな」
「実はまだ終わりではありません」
傘立てから一本の傘を手に取り、彼に手渡す。
「これが誕生日プレゼント?」
「今から使えます。開いてみて」
私の言葉を合図に傘を開くと赤い縞模様が描かれていた。
「アカクラゲか。なまえの持っている傘のモチーフはミズクラゲだが、それよりも毒が強い」
「乾くんの魅力は私にとって毒だよ。私をダメにする」
「むしろ俺が君の好奇心に刺激を貰っていると思うけれど」
じゃあお互い様だね、と笑い合う。どんな天気でも乾くんは刺激をくれる存在であることに意義はない。
傘に当たる雨の音が今までで一番弾けて聞こえた。