四季折々 | ナノ

憎いけど愛おしい




気温も高くなり始めてコートの重みから解放される。着る服のチョイスも無意識のうちに明るい色を選ぶようになってきた。春服は好きだけれど暖かさと共にやってくるあいつには毎年頭を抱えている。

「今年こそ出不精から脱したくてやりたいことリスト作ったけれど、かゆいものはかゆい……」
「3月になって5回外出しているから昨年よりは増えているよ」
「でもまだいちご狩りとか行けてない」
「じゃあなまえのために対策を立てないといけないな」

乾くんが笑う間にも私の手が動けばすぐ柔らかく握られる。傍から見ればイチャついているだけのようなのだが、手の動きを制限してほしいと私からお願いをした故の行動だ。彼の大きな手に止められてもらえば絶対に目元まで手は行かなくなるし、何より手を握られると安心する。

「せっかくいちご狩りに行くなら可愛い眼鏡とかして行きたいな」
「それは楽しみだ。君の眼鏡姿はこの時期限定だから、見たことがあっても毎度初めて見た時のように可愛いと思ってしまうしね」
「乾くんもギャップに弱いんだ?」
「ギャップと言うよりはなまえだからかな」

あまりにもさらりと言われて瞳から視線を逸らす。彼との会話は目を見ながらするように心がけているが、恥ずかしさが勝ってしまうと途端に出来なくなる。私の視線の動きに気付いた乾くんはふわりと握っていた手をぎゅっと強めた。親指で手の甲を撫でてくすくすと笑う乾くんは楽しそうだ。

「そろそろ点眼をしたほうがいいんじゃないかな」
「あっ、本当だ。袋取ってくれる?」
「たまには俺にやらせてもらえないかな」
「それだけはいくら乾くんでも怖くて無理……」

残念だ、と言いながらも目薬を渡してくれる乾くんの優しさだけでかゆみはなくならないことが悲しい。でもあいつのおかげで春はずっと手が触れ合うようになるから癪に障るけれどありがたい季節だ。


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