四季折々 | ナノ

先走りトリック




ハロウィンが近付くと街はオレンジやなんやらで彩られる。少々浮かれすぎではないか?と思わなくもないが、乾くんと過ごす毎日でハロウィンの催しを取り入れてしまっている以上そんな筋合いはない。

「カボチャの中にみかん……なまえは何がしたいのかな」

抱えた袋いっぱいに詰められたオレンジ色はほとんどがカボチャだが、こっそりみかんを入れていたのがあっさりバレた。別にバレたところでどうこうはないが思っていたよりも早々見抜かれてしまった。流石は乾くんと言ったところ。

「小さいジャック・オ・ランタン作るならみかんかなって」
「カボチャもサイズ違いで買ったのに更にミニサイズのものか。かなり可愛らしくなりそうだね」

楽しそうに笑う彼につられて私も笑う。買い物に行くだけでも目的の物が変われば毎回新鮮に心が踊る。それゆえについ余計な物を手に取ってしまうのが私の悪い癖だ。毎度乾くんのおかげで購入には至らず済んでいる。

「みかん買ったからこたつ出しちゃおうかな」
「またなまえがこたつに引きこもることになるね」
「こたつには勝てないよね」

吹く風が冷たくなるとなんて事ない会話にも影響が出る。この間はお風呂の話で、その前は鍋の話。二人で色んなことをしたけど話題には事欠かないのはお互いのやりたいことが尽きない証かもしれない。

「そういえば作り方調べていたけど、どうやろうか?」
「私がカボチャに顔を描いて乾くんが切り抜く役割をお願いします」
「一つは俺が描いてもいいかな?」
「もちろん。なんならみかんはいくらでも描けるよ」

そうかもしれないね、と袋の中を見てくすくすと笑う。

「じゃあ一つはカボチャの馬車にしようかな」

彼の発言に吹き出しそうになる。私は馬車の作り方までは調べていないし、何よりいたずらをするにはまだ早すぎる。

「まだトリック・オア・トリートって言われてないよ」
「言う必要はない。何故ならこれはいたずらではないからね」

明らかに彼はいたずらっぽく笑っているから言葉と表情が矛盾している。街の雰囲気に飲まれて浮かれるような人ではないのに一体何を企んでいるのか考えると彼はまた笑う。

「ごめん、ちょっとなまえのこと揶揄った。馬車は作らないよ。お化けの中にあったら浮くだろうし」
「お化けの中にある馬車想像したらちょっと変だった……」

ちょっと悔しいから、ハロウィン当日は大量のカボチャ料理を用意してしまおうかな。なんて考える私のほうが浮かれているのかもしれない。


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