四季折々 | ナノ

月下で愛を囁いて




月を眺めて愛でる文化は古くからあるが、最近その魅力が分かるようになってきた。太陽のキラキラとした光も元気をくれるが、月光のロマンティックな雰囲気も他には変え難い。この時期の夜は夏の終わりの儚さからか、どこか哀愁を感じる。

「随分長く外に出ているから、冷えないように羽織るものを持ってきたよ」

大判のストールを持った乾くんがベランダに出て私に寄り添うように近付く。こういうささやかな気遣いが嬉しいことを理解して行動に移す乾くんは本当に素敵な人だ。
ありがとうと告げてストールを羽織ろうとしたが、それより先に彼が私の左肩にストールをかけた。そのままぎゅっと抱きしめられ二人羽織のようにストールに包まる。

「乾くん寒いの?」
「寒くはないけど、俺もたまにはなまえとこうしてひっつきたい日もあるからね」
「いつもしていいのに」
「じゃあ、これからはそうしようかな」

笑いながらさらに抱きしめる力を強められて彼の体温をより近くで感じる。普段より温かく感じるのは今日の夜は冷える予報が当たったからなのか、それともわたしが寂しかったのかと問われたらきっとどちらも当たっている。

「ベランダに出た時は少し表情が暗かったから心配だったけど、もう大丈夫みたいだね」
「うん、月光浴って本当に凄いんだね。これからもやってみようかな」
「……ふふ」

思わず出てしまったような乾くんの笑い声に戸惑う。一体何が面白いと感じたのだろうか。

「乾くんどうかした?」
「いや、これからますます寒くなるからなまえが月を見る度に口実ができるなと思って」

私のすぐ後ろで楽しそうに笑う。そんなこと全く意識していなかったから驚きつつも彼の可愛らしさを愛しく思う。

「これからも、こうしていいよね?」

私の耳元に唇を寄せて尋ねる声が全身に甘く響く。さっきよりも彼の体温を感じるような気がしてなんだな心地よい。
うん、と答えた私の声は想像以上に小さくて、距離の近さと触れる息の熱にかなり惑わされているようだ。

「……ねえ、いつまでここにいる?」
「ごめん。離れがたいけれどそろそろ部屋に戻ろうか」

私を抱きしめていた腕をほどいてふわりとストールをかけ直す。微かに感じる彼のぬくもりが愛おしい。今日はこのストールに包まって寝てしまいそうだ。


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