高尾



ありがとうございましたあ、と間の抜けた挨拶に送り出されて自動ドアを潜れば、冷たい外の空気へとさらされた。ぴゅう、と吹く風に鼻がキンと痛む。さむい。

既に日も落ちきっていて、真っ黒に近い空の下ではコンビニの電飾がよく映える。店内の強い光が漏れ出して、ぼうっと光ってそこだけ別世界のように見えた。
そんな店の前のごみ箱へ、高尾はレシートか何かを放っている。受けとったばかりのビニール袋をガサガサ漁って、白い紙で包まれたひとつを私へ手渡した。


「ほい。どっちがピザまんかわかんなくなったわ」

「高尾は何買ったの」

「肉まん」

「なら私どっちでもいい」


俺は肉まんがいいの、なんて言いながら三角に包まれた白い紙を開いて、高尾は湯気の立つ手元のそれの匂いをくんくんと嗅いでいる。
私も受けとった白い包みをがさりと開いた。少しサーモンピンク掛かった、丸くてあったかいピザまんがお目見えする。色的に、多分ピザまん。


「高尾たぶん合ってるよ、これピザまん」

「マジで?なんでわかんの」

「だって色違うもん」

「なんだよ言えよ」


今まで躊躇っていたのが嘘みたいに、勢いよく高尾は肉まんにかじりついた。うめえ、と漏らす高尾は良い食べっぷりだ。今まで体育館を休みなく走り回っていたのだから、私の比じゃないくらいお腹が空いているのだろう。
私も手元のピザまんにかじりつく。チーズが蕩けていて、少し舌を火傷した。ちょっと痛い。でもトマトとチーズの濃い味が口いっぱいに広がって、おいしい。


「コンビニの肉まん系が美味しくなる季節だね。食欲の秋だね。」

「どっちかっつーと、もう冬寄りだけどな」

「いやいや困る、芋栗南京私まだ満喫してない。果物も美味しい季節なのに。」

「ぶ、よく食うねえ」

「食欲の秋だもの」

「似たようなこと言って夏も色々食ってたけどな」


夏は素麺だスイカだかき氷だ、とか言って何かしら夏の風物を満喫していた自分をぼうっと頭に思い浮かべる。大体高尾は側に居たものだから、否定出来ない。気のせいじゃない。とはぐらかして少し冷めてきたピザまんをまた口に頬張る。
ふと振り返ったコンビニの旗の形をした広告に「おでん始めました」と書かれていて、少し心躍った。そうか、おでんか。もう鍋も美味しい季節だね。

私の真似をして振り返った高尾は、ぶふ、と吹き出した。何よ、と横目で睨みつければ「いや、ホントお前よく食うよね」と笑っている。


「そう言うけどさ、なんだかんだ高尾もよく食べるじゃん」

「そりゃお前、隣であんなにうまそうに食われたら、食欲も湧くっしょ」

「…私?」

「そうそう」


すごい宣伝効果だよね。私広告のオファーきちゃうかも。と言えば「その商品絶対ヒットだわ」と高尾も笑った。下らないやり取りが心地良い。
ふざけて帰路を歩きながら、高尾は肉まんを少しちぎって私に寄越した。私は喜んでそれを受け取る。高尾は私が「一口」をせがむのを解っているので、最近は言わずともくれるのだ。なんて出来たやつ。私もピザまんをちぎって渡す。
分け合えるくだけた関係が、なんとも心地良い。


「高尾、駅前に新しくラーメン屋出来たの知ってる?」

「へえ、知らなかった」

「今度帰り食べに行こう」

「へいへい、仰せのままに」


121102

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