「どういうことだよ」


公園のベンチで不機嫌そうに頬杖をつきながら、蘭丸はぶっきらぼうにそう零した。

はて、なんのことやらさっぱりわからない。

放課後、お互いに部活が終わった頃を見計らって校門で落ち合い、一緒に下校することは私と蘭丸の日課となっている。
ちょうど別れ道となる、住宅街にこじんまりと存在するこの公園で軽くお喋りすることもしかり、だ。

校門で会った時からなぜだか今日の蘭丸は機嫌が悪かった。

ガコン、とベンチの隣の自販機で落ちてきたペットボトルを拾うために屈んでいた私は、必然的に蘭丸を見上げる形になる。
夕日色に照らされる蘭丸は艶やかな髪や滑らかな肌がキラキラ光ってとても綺麗だ。けれど、やっぱりどこか不機嫌そうな表情が、せっかくの美しさを台なしにしてると思う。

なんか嫌味でも言われるのかなあと憂鬱な気持ちになりながら、出来るだけゆったりと受取口からペットボトルを取り出す。
けどそんなものが大した時間稼ぎになるわけもなく、私はお茶を手にしながらとぼとぼとベンチへ戻り、蘭丸の反対側へと腰を降ろした。


「ところでさ、どういう意味?」

「…昼休み」

「昼休み?何かしたっけ」

「…山菜たちとの会話」

「えっどれのこと?一々覚えてないよ」


痺れを切らしたように蘭丸は荒々しく言葉を漏らした。


「だからっ俺の何が好きだってそういう話だっただろ!」


「ああ、あれ?聞いてたんだ」

「だからどういう意味だよ」

「そのままの意味だよ。
蘭丸の顔好き。」


途端、明らかに蘭丸が顔をしかめた。
今日の蘭丸はやたら沸点が低い。やだやだストレスかしら。


「美奈子、俺が顔のこと言われるの嫌いだって知ってるよな?」

「でも好きなんだもん。」

「だからって…」

「美人な彼氏を友達に自慢して何が悪い!」


どやあっと言いたげに得意げな顔をしてやると、蘭丸は不機嫌そうな顔でそっぽを向いた。
今気づいたけど蘭丸って不機嫌だと頬杖付くみたいだ。これは新発見。


「美奈子は顔しか好きじゃないのかよ」

「そんなこと言ってないじゃん。蘭丸がまるごと好きだよ。」

「…顔が違ってもか?」

「蘭丸はその顔で蘭丸だからちょっとよくわかんない」


そう言うと蘭丸はまた顔をしかめる。
だんだん分かってきた。今日の蘭丸は不機嫌というよりは、拗ねてるに近いっぽいぞ。

喋りながらペットボトルの蓋を開けようとしていたのだが、今日はどうにも開きそうにない。困った。
でも蘭丸に今ペットボトルなんか渡したらどっかにぶん投げられそうな勢いだ。どうしよう。
仕方ない。早いとこ機嫌直してもらうしかないかな。
全く手のかかる彼氏さんだ。


「蘭丸くん、私たちが付き合ったきっかけを覚えているかな」

「…美奈子の、告白」

「ではでは、私が君に惚れた理由を覚えているかな」

「…一目惚れ」

「ピンポンピンポーン」


大正解。と間延びした言い方で拍手付きで褒めてやると、今日1番の怪訝な顔が返ってきた。
その顔たまんない。


「私蘭丸に一目惚れして、それから色々蘭丸のこと知りたいなって思うようになったんだもん。
だからさ、もし蘭丸の顔好きにならなかったら私、こんなに色々蘭丸の良いところ見つけられなかった訳じゃん」

「…うん」

「言い換えれば、蘭丸の顔が私たちのキューピッドな訳じゃない。」

「おいおい顔がキューピッドって…」

「だってそうじゃん。キューピッドだよ。そう考えたらさ、もっと蘭丸の顔好きになっちゃうじゃん。
ありがとう蘭丸の顔!私に蘭丸の良いとこいっぱい見つけさせてくれてありがとう!大好きだよー!」


腕を空に目一杯広げて感謝の意を表してたら、隣で蘭丸が小さく吹き出した。
口許に手を当てて綺麗に笑う蘭丸に、さっきみたいな不機嫌さは見当たらない。
やっぱり蘭丸は笑顔が1番かわいい。


「つまりはね」

「うん?」

「蘭丸大好き」


ついに盛大に吹き出した蘭丸はからからと笑いながら「俺も好き」と楽しそうに口にした。
そんなどんな女の子も顔負けにしちゃうくらい可愛くてかっこいい蘭丸が、やっぱり好きだと思う。


「ところで蘭丸は私のどこが1番好き?」

「…胸?」

「最低」




【主に顔が好きです】:霧野

Title by 確かに恋だった

120703



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