「…何してんのお前ら。」

ドアを見遣ると、気怠そうに立っていたのはクラスメートの南沢で、怪訝そうな目でこちらを見てくる。
クラス皆のために慈善活動のお掃除だよ!と言ったら
ハッと鼻で笑って馬鹿にされた。
すごい腹立つ。

「おい、南沢部活はどうしたんだ?」
三国はじとりと南沢を睨んだ。

「あー、そんな目で見るなよ。

しょうがないだろ、
呼び出されてたんだから。」

「…それって誰にー?」

「知らない女子。」

南沢はポケットからかわいらしいプリントがされた封筒を取り出し、ぴらぴらと弄んだ。
ラブレター、だと…?!
本物初めてみた。

「うわぁ出た出たモテ男め。
なんで南沢ってそんなモテんの?なんで?
性格こんなに歪んでるのに!」

「お前には言われたくねぇよ。」

何、ウラヤマシイの?
口元に小さく笑みを浮かべて小ばかにしたように
ぺちぺちと封筒で頬を叩かれる。
なんかホントにイラッときた。

「別に羨ましくなんかありませんー」

「ま、お前みたいなお子サマにはまだ早いか。」

今度はカチンときて、
つい、キスはしたことあるもん!と
余計な事を口走ってしまった。
南沢がキョトンとした目でこちらをみてくる。

「へぇ、意外。
それっていつの話だよ。
まさか幼稚園とか言わないよな。」

「…さっき。」

南沢は更に目を丸くした。何お前彼氏いたの?
それこそ意外、
なんて失礼極まりないことまで言ってくる。
…まあ確かに居たことないんだけどね!

お昼前のことをボソボソと説明すると、
南沢もすごく驚いたような顔をしていた。

「へぇ、
じゃあ相手は誰だかわかんないんだな。」

「うん、教科書顔に乗っけてたから見えなかった。」

「…にしても、
古文の教科書顔に乗せた女に欲情って
物好きもいるもんだな。」

色気のカケラもねぇよ、と小ばかにして笑ってくる。
本気で腹が立ったので手元にあった例の瓶を南沢に投げつけた。
そしたらあっさりとキャッチされた。むかつく。

「腹立つ、傷ついた、
バツとしてそれ開けてよね!」

三国で開かなかったんだ、ひょろ男の南沢になんか開くもんか、バカにしてやる。
悪どい気持ちいっぱいでそう告げると、
南沢はじっとそれを見つめたあと

キュ、と蓋を横に捻った。

くるくると細くて長い指が蓋を回す。
蓋はあっさりと瓶から離れ、南沢はキョトンとした表情で
開いたけど?とそれを手渡してきた。

「…ありがとう。
…これ、回すタイプだったんだ。」

「もしかしてお前、開けられなかったとか?」

冷静に考えればわかるだろ、そう言われて頬が熱くなるのを感じる。
南沢に言われるなんて悔しすぎるけれど、返す言葉もない。

けど開けられなかったのは私だけじゃない。
三国だって開かなかった。
苦し紛れの抵抗だと思うが同じ間違いをしたのに私だバカにされるのも癪である。

「三国だって…」
そう言い返そうとした瞬間「終わった。」と今まで黙々と掃除を続けていた三国が少し大きな声で遮った。
キッと三国の方を睨むと、バツが悪そうな顔をしてそれとなく目を反らされる。
ちくしょう、やられた。

しかし何が終わったんだろう、そう考えてハッとする。
そのまま三国の足元に視線を下ろすと、塵一つ落ちていない床。
手にはもうごみ箱に中身を放るだけになったちりとり。
中には長い時間を掛けて今まで積もってきたであろう、教室中の埃たち。
まさかまさか。

「請け負った分の仕事は終えたからな。俺は部活に行く。」

「待って待って三国、私まだ掲示終わってない!」

「お前の仕事の半分以上やったんだ。それくらい自分でやってくれ。」

違う、手伝って欲しいんじゃなくて置いてかないで欲しいんだよ!
空は既に菫色である。
すっかり薄暗くなってしまった教室でひとり寂しく掲示物ぺたぺたなんて、
考えただけでも恐ろしい。なんて惨めな光景だろう。

「あと15分、いや10分でいいから!」

「これ以上後輩たちに迷惑掛けられない。俺は行く。」

「お願い待って待ってー!」
必死に左腕を抱き込んで全力で三国を止めにかかった。
体格差や力の差は歴然だけれど、優しい三国は絶対に振り切ったりしない。
それを逆手に引き止める私は最低だって分かってるけど行かせるわけには行かないんだ!私のために!
サッカー部の後輩くんたちごめんね!

扉の前では南沢が口に手の甲を当ててクスクスと笑っている。
ちくしょう、絵になる笑い方しやがって!

「はぁ、笑った。
じゃあな三国先に行ってる。」

「待ってくれ南沢、こいつをどうにかしてくれ」

「やだよ、面倒臭い」

南沢が加担しなかったことにガッツポーズをしながら、私は三国を留めさせる術を必死で探す。

そうだ、冷静に、なろう。
南沢のアドバイス聞くのは癪だけど確かに一理ある。
何かいい方法はないか、朝からの出来事を頭の中でぐるぐると巡らせた。

…あれ?

「じゃあな、ちょっとは頭使えよ笹木。」

「南沢待っ」

私の額をコツン、と手の甲で一度突いて、
カラカラピシャン、とドアは軽い音を立てて閉まった。
三国の引き止めの言葉を遮って。
悪態ひとつ残して。


「…ねぇ、三国。」

「頼むから離してくれ、
部活に行かせてくれ」

「なんで南沢、
私が古文の教科書で寝てたの知ってるんだろう?」



(……あ)


【日だまりからキス】:南沢
110605
--------------
南沢くんが驚いたのは起きてると思ってなかったからです。




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -