目を開けると、知らない天井が広がっていた。

どうやらどこか屋内であるらしい。
寒すぎない程度にクーラーが効いていて、ずっと太陽に当たってほてっていた体にはとても心地好かった。

起き上がってみると、ソファで寝ていたせいか首が痺れて地味に痛い。
額からは水分を含んだ生暖かい白いタオルが落ちてきて、ぺしゃりという音をたてた。
凝りを解すように肩を回しながらはた、と気づく。

あれ、私なにしてたんだっけ?

寝起きの頭はうまく働かなくてなかなか思い出せずうーんうーんと頭を悩ませていると、自動ドアの開く音がしたので、そちらへ首を傾ける。
青い学ランを着た、先ほどのふわふわヘアーの男の子が立っていた。

「気がついた?気分悪くないか?」

「あ、もう全然大丈夫です!」

「そうか」

ならよかった。こちらへ近付きながらふわりと微笑んで、彼は私にスポーツ飲料のペットボトルを差し出してきた。

「多分、水分不足と日射病だと思うからこれ飲んで。」

「わ、ありがとうございます」

喉がカラカラに乾いてしまっていて遠慮とかしている場合ではなかった私は、いただきます、と呟いてその中身を一気に流し込んだ。
飲みっぷりに定評のある私は、盛大に喉を鳴らして勢いよくぷはっと口を離した。中身が三分の一くらいになった。
それをみた男の子はクスリと笑う。

あ、癖でついやってしまった、すごい恥ずかしいぞこれ。
みるみる熱が集まってきた頬を気休め程度に手で仰いだ。

「よっぽど喉乾いてたんだな。」

「あはは…財布忘れてきちゃって…本当にすみません、色々助けて頂いて。」

ところであの、ここってどこなんですか?と気になっていた疑問を口にすると、彼は「ああ」と快く教えてくれた。

「此処は雷門中のサッカー棟の中なんだ。君の制服が雷門のと違ったから、保健室に運ぶ訳にはいかなくて。」

寝難かったならごめん、と眉を下げて言われてしまった。いやいやいや、助けていただいたのにそんな贅沢なんていいませんよ。
むしろ、こんな細っこい男の子に私を運ばせてしまったなんて…こちらが謝るべきである。こんなことならちゃんとダイエットしとくんだったな…と切ない罪悪感が沸いて来た。

て、はっ。そうだよ。私雷門に侵入してたんだよ。

なんとなく分かってたけどさ、制服、モロバレだったね。やっぱダメか。まぁ、近目でみたら全然スカート違うし、仕方ないだろう。

「悪いな、とは思ったんだが、鞄勝手に開けて生徒証見させてもらった」

「え。」

「世宇子中の生徒なんだな。」

変装云々とかそういう問題ではなくなった。学校バレてた。確信を突かれて言葉を失う。言い逃れは出来ないぞ。
このまま不審者として学校に連絡されたらモンスターの刑なんだろうな、と思ったらうっすら涙が出てきた。あの拷問を受ける覚悟をしなくてはならなそうである。

「一応聞くが、サッカーの偵察とかではないよな?」

男の子は綺麗な顔に真剣な表情を浮かべて、そう尋ねてきた。否定の意を込めて、首を全力で横に振る。


「そうか、ならいいんだ。」

安心したように表情を崩して、再び男の子は優しい笑みを浮かべた。

「俺は神童拓人、サッカー部なんだ、よろしく。」

「えあ、笹木美奈子、です。」

シンドウ、進藤?くんは人の良い笑顔で自己紹介してくれる。
この流れだとどうやら、学校へ引き渡される心配はなさそうだ。拷問回避にホッと胸を撫で下ろした。
なんだ、雷門サッカー部には良い人もいるみたいではないか。

「ところで、」

「はい?」

「ところで、笹木さんは雷門まで何しに来たんだ?」

何か困ってるなら手を貸すよ。そう優しく進藤くんは微笑む。

そうだ、サッカー部の彼なら奴の居場所がわかるのではないだろうか!


「あのっ、私カミサマを探しに来ていて!」

「………?」


進藤くんは笑顔のまま固まった。
若干引き気味で、明らかに目が泳いでいる。

それもそうか、中途半端な変装で忍び込んでる時点でめちゃくちゃ怪しいのに、これでは本当に私ただの頭の痛い子ではないか。
弁解するかのように、必死で言葉を付け足す。

「あの、友達がカミサマ、って人にずっと騙されてるみたいで、私友達を助けに来たんです。」

「えっと…、そうなんだ…」

「それで、そのカミサマっていうのがサッカー部らしいんですけど、」

この部の中に、同じ二年生ですごい沢山の女の子はべらしてる感じの人っていませんか!
そう尋ねると、進藤くんは口元に手をあてて難しい顔をした。どうやら該当人物を模索してくれているらしかった。
「南沢さん…はちがうか…」ぶつぶつと小さく呟きながら、段々と眉間に小さくシワが寄る。

「うーん…多分、人違いじゃないかな…?」

「それはないよ!!!!」

拳を握って勢いよく即答すると、「そ、そうか…」と進藤くんは困ったように軽く笑った。

「でも、それに該当しそうなチームメイトが居ないんだ…」

えっ。と、すぐに見つかるものだと思っていた私は拍子抜けした。実は女の子の前でだけそんな感じで、普段は爪を隠しているとか…?うわぁ、なんて奴だカミサマ!

「じゃあ、すこぶる顔が綺麗な人とか居ませんか…」

割と昔から茜ちゃんはメンクイ、というか顔が綺麗な人が好きだったので、それだけは確定していいだろう。

「うー…ん…あ、霧野…とか…?」

でも霧野…?うーん…?とすごく眉間に皺を寄せて悩む進藤くんからは、先ほどから『キリノ』という名前が呟かれている。
そうか、カミサマはキリノと言うのか。

「進藤くん、そのキリノ、くんの所へ連れていってください!」





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