はい、おみやげ。

その言葉に、申し訳ないが俺は自分の顔が引き攣るのを感じた。

おみやげ。
思えば小学生の頃から、俺は女子からのこの単語でいい思いをしたことがない。

最初からそうだった訳じゃない。俺も小さい頃は、「おみやげ」という代物が素直にうれしかったし、喜んで受け取っていた。

しかし、いつからだったか、俺は女子の「おみやげ」に少しずつ不信感を抱いていった。
なんで特別仲良くもない俺だけに、それを渡すのか。すぐに答えは明確になったけれど、小さな俺には到底納得のいく内容ではなかった。

それが食い物だった場合はまだ良い。
問題は、それが形の残る物だったときだ。

なぜだか未だにわからないけれど、女子はストラップとかキーホルダーとか、そういったジャラジャラとしたものを渡したがる。

夏休み明けに女子から渡されるおみやげは、八割方それだった。

普段ストラップとか、そういったものを特別自分で買うことがない俺は最初戸惑ったが、使わないのも悪いと思ったので、カバンとか筆箱とか手当たり次第適当にそれらを括り付けていた。

けれど、それをくれた女子の筆箱やカバンには、大体の場合俺に渡したのと同じやつが付いているということに気がついてからは、付けるのを止めた。
よく知りもしない奴とお揃い、もしくはペア物なんて気味が悪いし、後々揉め事になるのは目に見えている。
何よりそれが面倒臭かった。

神童と過ごすようになってからは、ふたりして同じものを渡されることもよくあった。
俺と神童がお揃いというのならまだ解る。
けれど俺と神童と知らない女子でお揃い、なんていうのは理解出来ない。どんな事態だ。どうかしている。

けれど神童は、もらったそれら全てを律儀に身に付けている。
そうすると大体俺の予想通り、俺らの知らない所で女の争いが繰り広げられたりする。神童の呼び出し回数が増えたりしていることも確かだ。

神童がよくそれで悩んでいるもんだから、一回、付けなきゃいいのにみたいなことを言ったらあからさまに顔をしかめられた。
酷いとか人としてどうとか言われてカチンときたが、こんなくだらないことで神童と揉めたくはなかったのでさっさと謝った記憶がある。

神童は嫌がっていないということには驚いたが、まあ、考え方は人それぞれということだろう。

けれど俺は、女子からの「おみやげ」はやっぱり嫌いだ。

だからクラスメイトの笹木に声を掛けられた、今、俺は思わず身体が強張っている。

笹木の手元に目を向けてみると、観光地のロゴが印刷された大きなビニール袋を提げている。
透けないタイプのそれは、外から見ただけでは何が入っているのかよくわからない。

これは、お揃いストラップな可能性が否定出来ない。
せっかくなのに悪いが、面倒事になる前に適当にはぐらかしてしまおうか。

どうするかな、と思い、机を挟んで向かいにいる神童に目線を向けてみると、完璧な笑顔で「わざわざありがとう」とお礼を言っている。
これは受け取るしかなさそうだ。
仕方なく俺も作り笑い、お礼を復誦した。


「いえいえ。イチゴとチョコがあるんだけど、やっぱりこれって色で渡すべきかな?」


笹木は笑いながら、小分けにされた小さな袋を俺の目の前に二枚置いた。
正直、驚いた。


「え?」

「は?」


笹木はきょとんとしながら、「何、霧野もチョコが良かった?」と言われたので首を振ってNOを伝える。
途端、笹木は腑に落ちない、といった顔になった。


「え、じゃあ何?せっかくあげてるのに霧野感じ悪い。」

「ああ、いや何でもない。ありがとう。」


咄嗟に笑顔を繕ってそう伝えると、ピンときたのか笹木がニヤリと笑った。


「ははーん、モテモテ霧野くんは小分けなんかじゃ満足出来ませんか。」


勘の良さに思わず笑顔も引き攣った。


「すみませんね、46枚入りクッキーの一枚で。もういい、あげない。」

「わっ待て待て!違うってごめん悪かった!」


焦ってそう言えば、俺の頭にパスッとクッキーが当たって机に落ちた。割れたんじゃないかこれ。


「贅沢なモテ男め。なんでそんな特別仲良くもない霧野に、菓子詰め渡さなくちゃいかんのだ。」


それはそうだが、わざわざ言うか。少しカチンときたけれど、それよりも、何かがストンと納得のいく感じがした。


「…それが正常な感覚だよなあ…」

「は?何が?」


いや何でもない、そう言って机に落っこちた袋を開いてクッキーを口に入れる。やっぱりふたつに割れていた。
あ、うまい。

俺が割れた二枚目も口に入れた頃、笹木はニタリと笑いながら再び口を開いた。


「ねえ霧野、甘いよ。」

「…ふ?」


口がもそもそして上手く声が出せなかった。
文脈が掴めない。甘いとは、クッキーのことか?


「皆がみんなさあ、そんな解りやすくアピール出来るわけないじゃん。偶然を装って、ナチュラルに渡したい子もいる訳よ。だから46枚とか、大して仲良くもないクラスメイト分の大人数のセットを買っちゃったりするかもしれないじゃん。」


俺は固まった。
向かいの神童も手が止まっている。


「なんてね、冗談。」


涼しい顔した笹木は、さっさと次のグループへとお土産を渡しに去って行ってしまった。
口の中はまだ人工的なイチゴの甘ったるさが残っている。

やっぱり女子のおみやげは、恐ろしい。




120804



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