廊下の壁一面にきっちり同じ升目で貼られた写真は、新たな模様みたいだった。
その一枚一枚の右下に書かれた小さな番号を、私は大きな茶封筒に書き写していく。
廊下はなかなかの盛況っぷりで混雑しているけれど、自分や友達の写真を見つけるのはなかなか楽しい行為だ。
修学旅行楽しかったなあ、なんて懐かしさに思いを馳せながら、私は購入する写真を黙々と選んでいる。
「なあ笹木、今何枚?」
「今のとこ15ちょい。霧野は?」
「30くらいだな」
「…女子かっ」
隣に並んだ霧野と軽口を叩きながら、再び壁の写真を見つめる。所々に鮮やかなピンク色が浮かんで見えた。きっと彼は、こういうとき写真が多いタイプの人であろう。
確かに私がカメラマンだったら、自然と霧野へカメラを向けてしまうと思う。
それだけ彼は人込みでも目を引く見た目をしている。
本人は嫌がるので余り言わないようにしているけれど。
「あれ、あんた105って霧野くんの写真じゃーん」
「もう見ないでよお、やっぱり欲しいじゃん霧野くんの写真」
「いや私も105買うお揃いお揃い」
きゃあきゃあ写真を選ぶ女の子たちの会話に聞き耳を立ててみると、十中八九サッカー部員の名前が出てくる。
中でも霧野は大人気だ。霧野は洒落にならないくらい女の子受けが良い。
そうか、女の子はこういう場所で好きな男の子の写真をゲットする訳か。
私は新たな発見、と驚きながら、噂の105に目を向けた。霧野と神童の笑顔のピースサイン付きショット。きっと今回の修学旅行で一番売れ筋の写真となったに違いない。
「全部見終わったか?笹木何枚?」
「21枚。」
「…あれ、一枚見逃したかも」
最後の方かな、なんて言いながら霧野は再び写真に目を向ける。
ん?あれ?
「ちょちょちょ霧野、どういう意味?」
「え?だから笹木の写真一枚見逃したみたいだ。もう探すの面倒だから封筒の番号見せてくれ」
「いや、えっ?あっ」
気を抜いていたせいであっさり霧野の手に私の封筒が渡る。
待て待てそれはまずい。
「返してっ」
「待てまだ確認終わってないんだ」
「確認されたくないから言ってるんだよ!ていうか納得いかないよどういう意味!」
「いやだから、笹木の写真を買ってる」
「いやだからなんで!」
「欲しいからだけど」
「せめて控えめに一枚とかにしてよ!そして私にばれないよう気を遣ってよ!」
「いやだから全部自分で見つけてれば言うつもりはなかった…あれ、全部ダブってる。」
「…」
「笹木多分105って、笹木じゃないよな」
「…知ってる」
「ふは、なんだやってること一緒か」
「霧野うるさい!」
120708