05.不可解方程式のA


できる事件の概要を調べる為には3年前に遡る必要がある。
昨夜ネットで調べた情報を元に考察すると、不審な点を感じた。
主犯とされている毒島と多間木の力関係だ。
学校で見る限りあの男は誰かに何かを指図されてするような男には見えなかった。
多額の金を十神家に払い、留学までしている。おまけに前科有りで高校編入も可能にしているところを見ると社会的になまら影響力を持っているのは確かである。
一方、毒島の方は家は貧しく逮捕後に破産。現場となったアパートは毒島名義となっていることから切迫したものは感じない。
これ、人間関係から洗うと穴だらけじゃね?


案の定、聞き込みをすると毒島のアパートは父親が息子の為に借りていたもののようだ。(学校?サボりです、授業料払ってるお父さんお母さんごめんなさい)
金が無いときと言うのは振っても跳ねても出て来ないことを経験から知っている。
どんなに息子に脅されても父親が保障認証だのに判子を押す気がしない。
しかも、親子共に多間木に逆らえない状況を作られているとしたらこれはもう白だ。真っ白。
感じよく微笑めばありとあらゆるところから情報を集めることができた。
飛び込み営業の成果だね、ほろり……
次に移動したのは剣持の自宅だった。
奥さん相変わらず美人、若い。
『突然すみません、以前お世話になった者なのですが』
手土産を差し出すと婦人は何の疑いも無く座敷に通した。えっ、いいのこれ?念の為に偽名刺作った俺の苦労(ry
「先日も上司の方直々にご連絡いただいたの」
そう言った夫人はどこかやつれていた。
春は最近こんなんばっかだと心の中でごちる。
先月あんなことがあったばかりだから…と続ける夫人。
「金田一君のことですね」
「彼をご存知で?」
「ええ、よく知っております。
だからこそ単刀直入に、私は剣持さんが犯人だとは思ってません」
強く言い切る春に夫人はしばし瞬いた。
「そう信じてくださる方がいてありがたい限りです。
警視も本来なら公平な立場でと考えなければならない立場です。
表立って主人をかばう事はできないでしょう」
「でも、信じることは力になります。
信じなければ何も始まりません。結論は急ぐ必要は無いと思います。
私、剣持さんの力になりたいんです。些細なことでも何でもいいのでお話聞かせていただけないでしょうか」
剣道をやっていたときの特技、レッツ座敷礼。
そして話を聞いてくうちになにやら勘違いされている事に気がついた。
以前世話になった=剣道の生徒だと思われていたようだ。
この蛸、あいにく剣ダコじゃない。アルバイト先で持ち上げてるリフトダコ。

「おじゃましました」
話を聞き終える頃にはすっかり日が傾いていた。
春は途中で喫茶店に立ち寄りメモを開く。
十神まりなと剣持の関係。
師弟と言うのは一種特別な関係だと思う。
というのも自分が以前剣道部に所属していたからわかるのだが、講師にもやはり好き嫌い相性というのが存在していてお気に入りの生徒との絆というのはなかなか他人が入っていけるものではない。
師弟関係を認めるくらい親密なら剣持の思い入れの強さが今回の容疑を固めたのだろう。
しかし、腑に落ちない。
恨みの持続性について考えたとき、今更感が拭えない。
仮に剣持が犯人だと仮定しよう。何故今なのか?
大体、証拠が残っている状態ならば小細工なしに一思いにやっちまったほうが早い。
小細工をしないといけない理由が見つからない。
消えた拳銃についてもそうだ。
"そういう物"は厳重に管理されていて刑事の一存で持ち出せる物ではないと聞いたことがある。一体どうやって持ち出したんだ?
あえて面倒な手順の拳銃を奪い、みすみす取り逃がすなんて。
それに比べて魚の方は綿密だ。
バスタブで溺死って……昔テレビの推理クイズであったな。
目的はアリバイ作り。それならその時間帯にアリバイあるやつが一番怪しいだろ。
疑問点が多すぎる、とりあえずここは……
「すみませーん、メニュー下さい」
腹を満たそう。腹に力入らないと人間何も出来ないぞ。



翌日はしっかりと登校。
「美雪、顔色悪いぞ。
本気で大丈夫か?」
春は真っ青な美雪の頬をさすった。
昼休みは一緒に取ろうと持ちかけたが、これは今日は休みのほうが良かったのでは?と思うくらいだ。
「ちょっと眠れなくて」
「例の刑事に酷いことでも言われた?」
そんな事はないというのを承知で聞くと案の定ふるふると左右に首を振った。
「おねーさんさ、こう見えてもちょっと頼りになるんだよ。
良かったら話聞かせてよ」
「おねーさんって同い年じゃない」
くすりと笑うと美雪は事件の状況を説明し出した。
だてに一と事件に巻き込まれているわけではない。
美雪は美雪なりに考えていたのだ。
「多分、携帯電話に何か隠されてる気がするの」
「あとは場所だな。
わざわざ姿を見られてまでホテルで犯行に及ぶ理由。
ホテルじゃないといけない理由があったはずだ。
美雪はどうしたい?
私は美雪が辛そうにしてるのが嫌だ。
友達として力になりたいと思う」
力強い眼差しが美雪を射すくめた。
そんな瞳をした人間を彼女は一人だけ知っていた。
重なるような面影、春ははじめちゃんによく似てるんだと気づかされた。
こんなときはじめちゃんだったらどうする?
安全なところまで離れて様子を伺うなんて違うんじゃないかな。
「私、真犯人を見つけたい」


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