同化してから1週間がたった。
そろそろ決断を下すべきだ。

物語の一部になるか否かを……




自分の中の記憶でここが始点とは違う近代史を辿っていることには初日から気づいていた。
西暦のズレや技術工学の発展。
文壇に並ぶ近代作家。
しかし最も"派手"な違い。
TVに写しだされる白い影。
『また魔法(magic)かよ!』
思わずハムナプ風にツッコミを入れてしまった。
恋慕の情と衝動が先走り必死のパッチでヴォルデモートを追い込んだのが遠い昔のことに思える。
しかし、この精神に刻まれた疲れというか後味の悪さというのは早々消えて無くなるものではない。
よりにもよって名コナ?まじ快?
You know whoの組織なんてある意味正体まる分かりでその分対策も打ちやすかった。(それはもう存じ上げてますよと)
情報量がまったく違う、組織規模もだ。
答えの出てる夏休みの課題と答えの無い卒論以上の違いが両者にはあった。
もちろんあー山作品は絶世期で好きだったし映画も高校生あたりまで劇場に足を運んでいた。
かつて闇の帝王を追い詰めたときは多くの協力があったことも勝因の一つであった。

しかし翌日から現れた異変に急激にその考え方を改める必要性が発生した。
網膜なんて生易しいものではない。
記憶にこびりつくように満面の笑みを向ける小さな男の子。
ふかふかのねこっ毛があちこちに飛んでいて、マジックが成功するごとにどうだと言わんばかりに見上げてくる。
通常の親にとって子供というのがいかに大切か、以前の世界で学んできたせいかどうしても目を背けることができない。
そして、恐らくではあるが時点の私が生存した理由の一つに白い温もりが関係してるとしたら傍観者ではなく当事者として既に世界に組み込まれていると考えていいはずだ。
愛されている子は幸せにならないといけない。



一週間という時間が自分から呪いを遠ざけたような気がする。
決断力もマシになってきたし、精神のコントロールも安定期に入ったのか胸を焦がすような焦燥は無い。
始点の自分には無かった可能性が時点の自分にはあり、時点の自分には無かった生への希望が始点のほうにはある。
自分が二人居るような便利さと心地よさ。
始点の自分には仕事があり、お荷物となる家族も居ない。
どちらの自分も家族には煮え湯を何度も飲まされてきた。
DVに窃盗、家庭内は問題だらけだったけどそれが表面化しないことへの憤り。
旅行中の交通事故、反対車線から突っ込んできた車と衝突、病院に着く前に息を引き取ったそうだ。
何か苦しい目にあったわけでもなくあっさりと逝けたようでなにより。
もちろん家族のことを愛していたけれど迷惑をこうむって人生が台無しになった事実も忘れていない方としては生前の愛憎を抱えて苦んでいた……普通とは違う家族への感情ゆえに孤立し周囲と同調できない。嫌悪感に悩むことも無いのだろうと気の抜けきったところでそう思った自分にまたしても自己嫌悪をし、永遠のスパイラルを行き来するというのが時点軸の名前だった。
生きてくだけの経済力を身に付けていながら一生誰も愛さないで生きていくことに絶望を抱いた。。
生きた先に見出せない光。暗い水底にどこまでも沈んでいく不安。
同じ自分の痛みなのだから切ないほどに理解が出来た。



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