目の前には大きなロールキャベツがでん!と並んだ。

火を止めて戻ってきたところにちょうど良く快斗の腹が鳴ったのが原因だ。
なんでも千影さんはカリブに旅に出ていて先週から留守だという。
この後レンタルショップでDVDを借りてコンビニ弁当を買って帰る予定だ言った所で有無を言わさずこの状況になった。
もちろん何度か断りも入れたがクリームベースのロールキャベツを目前にその気は失せてしまった。
千影や青子が作るような家庭料理とは少し違う趣、洒落た大皿に乗ったそれからはコンソメのいい香りが漂ってた。
「ひょっとしてお姉さん料理上手?」
「そんなこと無いよ、必要にかられてね。
味の保障は出来ないけどコンビニ弁当よりはマシだと思うわ」
複雑な色を残した瞳が揺れる名前に快斗はまた変なこと聞いてしまったのかとドキリとした。




結局お代わりをした挙句、秘蔵のラックから今は廃盤になってしまったホラーコメディと日本ではメジャーになっていないテレビドラマのDVDを借りてしまった。
自分でも『あれ、俺何しに行ったんだ?』と途中で我に返るものの彼女の前ではなんとなくそう思うこと事態が馬鹿らしくなった。
DVDの趣味を見てもなんとなく自分の父と嗜好が近いような気もあり、親近感が少し沸いたというのもあるが、何より彼女からは何の悪意も感じなかった。
時折けぶるように伏せられる視線、乱雑に見えてそこはかとなく漂う優雅さといったものが育ちの良し悪しを判り辛くさせている。
あえて言うならば人形のようだと思った。
ある一定のルール下においてそうとプログラミングされた動きをする。
本来ならば人形のようなという形容詞に付くのは絶世の美少女や美少年なんかが多い。
名前の造形はそのような類ではなく、ごく一般的にありふれたもので街ですれ違っても印象には残りにくいタイプ。際立った美人でも不美人でもない、探偵や犯罪者などにはかなりうってつけと言える容姿の持ち主だ。
浮かべる表情もぼんやりしてて笑っていても空虚感が漂う。
しかし、話している感じ無理に笑っているというわけでもなく本人はいたって普通にしているつもりのようなのだ。
普通の人間には恐らく普通に見えている。
ちょっと鋭い人間からしたら作ったように見える表情。
しかし、作り物めいていてもそこのある感情は紛れも無い本物であることに彼女の話から感じとった快斗の心象はマンションを出る頃にはすっかり同情めいたものへと傾いていた。





二人分の皿の後片付けをしながら名前はぼんやりと先ほどまでのことを反芻していた。
普段はリビングにまで人を入れることは無かったが、まだほんのりと彼の存在が残っているように感じる。
紅子のところで何個か呪文を試してみてわかったが、この世界の理の中では魔法を使うことは出来なかった。
チート機能満載だった以前のケースとは大きく違う部分に若干の情けなさは感じるものの、心の底では快斗(KID)が勝つことに何の疑いも抱いていない。
主人公云々よりも本人を目にして感じたことだ。
年より少し子供じみた態度をとるがふとした瞬間に見せる鋭い眼差し、それでいて無遠慮に人の領域に入ってくることの無い真摯な姿勢。
人との距離感の図り方に考えあぐねている自分を気遣ってか必要以上に踏み込んでこない優しい子。
優れた人間の思考なんぞ名前にはまったく持って理解できない。
それはリリーという特殊な事情を背負った後もだ。
彼女自身が何か特筆したところがあったとしたら人好きする笑顔とか容姿とかそんなところだったがその恩恵に肖ることが無かった身としてはその経験もノーカウントと言えるだろう。
何せ赤毛の美人だという認識のよりも『リリーに酷似した』という前置きが勝る世界だったのだから。
若返ったことへの感想としてもどうせあと10年もすれば元の木阿弥、100年の時は一瞬に過ぎない。
今出来ないことを過去に戻ってこなすことが無い、リセットしたところで同じ道を辿るのがオチ。そうして人間と言うの永遠に時を孕んでいくのだ。
例のパンドラというやつに本当に不老不死の力があったとして、本当にそれは愉快な未来をつれてくるのだろうか。
もしかしたらそれは永遠に終わらない書物を読むようなじれったさや退屈さを齎すに過ぎないのではないか。
日曜夕方からはじまる某国民的アニメのように永遠と続く終わらない日常から、抜けることが出来ないとは考えないのか。
考えれば考えるほど例の組織というやつの目指すところが不明瞭になる。
もちろんそれは例のあの人にも言えた。
征服したあとの統治はどーすんのよ?と。



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