「寂しく…ないの」
広々としたマンションの一室。
綺麗に整えられたリビングの違和感。
雑誌で見るような様相は年頃のOLならば憧れるに十分な要素があった。
それでもどこか白々しさを感じるのは、この空間に漂うはずの人の熱が極めて薄いところにある。
快斗は薄っすらと感じていた気持ち悪さの正体に気付いた。
「どうだろ。
もう長いことこんなんだからよくわかんないや」
「寂しくないわけないだろ」
その一言は思ったよりも響いた。
思えば不思議なことだった。
声を聞けばなんとなく思い出せるものの、彼女の顔を単体で思い浮かべることが極めて困難で、記憶力の良さを自負している自分にはありえない感覚に戸惑っていた。
「結構前なのよ、4年くらいかな。
事故だったし仕方ないのよ」
そんな様子の快斗に気付いているのか否か、名前はゆったりと言葉を続けた。
過剰労働による疲れから前方を見誤ったトラックが突っ込んできた。
当初はニュースにもなりそれなりに周囲は騒がしくなった。
家でいつものようにDVDで海外ドラマを見ていた。帰ってくる家族のためにカレーを作り、お風呂を掃除して。なんて事の無い日々の繰り返しになるはずだった。
「家族仲もね、そこまで良いってもんじゃなかったしね」
「ずっと4年も一人だったのかよ」
「一応、ちゃんと仕事もしてるし同僚?仲間かな、とはちゃんと良好に関係を築いてるよ。
でも、意外かも」
「何が?」
「快斗君、そのくらい直ぐに調べが付いてると思ってたから。
私の仕事の事とか」
「出版社に出入りしてるところまでは調べたけど、その後寺井ちゃんが心配ないって言うから」
「いい人だよね、寺井さん」
「寺井ちゃんもこのこと」
「もちろん話したよ、私あんまり荒事得意じゃないし敵意と害意が無い事は主張しておきたかったから。
でもそれなら、目のことも聞いてないのかな」
「目?」
「うん、私の左目。
殆ど見えてないんだけど、かなり良く見える目なんだよね」
名前の肩が緊張で震える。
思っていたよりも早くネタばらしが必要なようだ。
何より薫色を秘めた真っ直ぐな視線にごまかしはしたくなかった。
「見えないのに見える目……」
「この左目はね、盗一さんなのよ」


快斗から伝わってくる動揺に名前は悲しくなった。
「だからね、快斗君が返してほしいって言うなら…この場で抉り取ってくれてもかまわない」
なんで、君が悲しそうな顔をするんだろうね。
「父さん…の」
「うん、ちょっとした事件で左目が傷ついてね。
そのとき、たまたま千陰さんが。不思議だけどこういうのも縁っていうのかな。
でも凄く感謝してる。
たとえ殆ど見えなくてもね。暖かさは感じるのよ」





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