ブルーパロット訪問から1週間がたった。

「Nooooooooo!!」

ついにこの時が来てしまった……。
「買い置いておいたドミーズのカレーさんが全滅だっ!」
名前は大げさにのけぞった。
台所のゴミ箱には大量に捨てられたドミーズ印のレトルトカレーの残骸が詰まっている。
皿にあけてレンジでチンしてご飯をのせるだけで良いというスペシャル食。
まさに人類の英知!
これなくして独身者の生活は成り立たないとは過言では無いだろう。
だいたい一人分の飯なんぞ作るのは面倒なんだ。
中途半端に余る材料、結局簡単なメニューに偏り永遠とローテーションされる食卓。
これが独女の悲しき実態である。
しかも仕事中は余計なことは出来るだけしたくないという物臭スキルも併発。
今流行のエコなんだと、主に時間と思考の節約が出来ていると名前は真剣で信じていた。
米・芋・飲料の類は定期的に配送されてくるので表に出なくても実質生活は成り立つ。
最後の手段はサプリメントだ。

買出し行かないとな……
サプリメントのビンからカラカラと軽い音が響く。
殆どが底をついてるのと、保存剤がむなしく転がってるのと。
薬局とスーパーか。
ついでにトリートメントと入浴剤も買っちゃおうかな。
コーヒーとトワイニング紅茶とマカダミアナッツチョコレート。
必要なものをメモしないと買い忘れたときに痛い。
普通に毎日のように出歩いてる人ならまた次回、なんてちょっとぐらい買い忘れがあってもダメージって少ない。
しかし、定期的にしか買い物をする気が無いヒキコモリに買い漏らしは厳禁である。
交通手段はもちろん自転車、籠が二個付いたスペシャルなママチャリ。
地球にも優しくめったなことで人を撥ね殺したりしない交通手段だ。
忙しい人も履くだけでカロリー燃焼をキャッチコピーに謳っていたスニーカーを靴箱からだし、シェルトレーから自転車の鍵を拾う。
もちろん今日もマスクとサングラスで完全防備。
大型スーパーは自転車で15分。




店内に入った後もマスクとサングラスはそのままだ。
下手こいてインフルとか貰ったらたまったもんじゃない。
平日の昼過ぎということもあり人気はまばらだ。
ふと日付を見ると月曜日。
明日なら火曜市だったか。
ヒキコモリの特性というか曜日にはとことん無頓着になる。
いつもの番組がやってなくてあー土曜(日曜)かなんていうのはかなりの頻度である。
取り合えず日付が解ってればOK。締め切り大事、期日厳守。
軽いものから買うべくテナントで入っている薬局でお目当てのトリートメントその他を購入すると早速カートを転がしながら生鮮食品売り場を巡る。
幼稚園くらいの子が母親を急かしていたり、老夫婦が揃ってあれこれ言ってる様は平和そのものだ。
コナン君と居たら毎日事件なのだろうか……一瞬した嫌な想像に顔をしかめる。
放送回数と週刊であることを考えると毎日事件が起きてもまだ余る。
いやいや、無理でしょ。無理無理。
事件の千本ノックとかおばさん心折れる。
小市民を舐めないでくれ。
気を取り直してほうれん草やたま葱を物色し、魚、肉と安いものから無造作に詰めていく。伊達に一人暮らしどころか家事全般を押し付けられていたわけではない。
スーパーに並んでいるような食材は一通り扱える。一時期それで良い嫁になるよ〜なんて言われていたが私は世間のお嬢さん方に言いたい。
料理なんぞ出来なくても仕事できりゃ死にはしないと。
就活してても家事なんてもんは何の役にも立たないことは証明された。
家事能力が無くても便利なこの時代、出来合いのものでも栄養バランスはよくその労力は別のことに効率良く使うべきだと思うのだ。
本当に男というものは……色々考えているうちになんとなく機嫌が急降下する。
そう、テレビや映画でイケメンをキャーキャー言うのは好きであるが実物の男はからきし。親族から時折、思い出したかのように来る電話では『良い人いないのか』なんて……余計なお世話だ。
段々と手つきが雑になってくのも仕方ない。
乾物売り場でうどんやそばといった茹でるだけ食べれる系を見繕い、ソース売り場で特売品のミートソースを手に取る。
頑張れば花粉明けまで引き篭もれそうだ。
アイス売り場で日ごろの癒し、パイントアイスを吟味し今日はチョコレートと苺に決めた。
チョコと苺の組み合わせは皿に載せても可愛いのでお気に入りだ。
結局チーズだのヨーグルトだのを籠に乗せたら結構な量になった。
積めないときはハンドルにぶら下げるという最終手段が残っている。
ぎっしりと重みを増したカートをレジに転がしていくと聞き覚えのある声が届いた。


「やべー財布机の引き出しに入れっぱなしだ」
快斗はカバンの中をあさりながら絶望的な声を発した。
お一人様三個までのパイントアイスが今日のお目当てだったのだが肝心の財布が見当たらない。
昼に購買でパンを買ってそのまま机にしまったままだった。
青子が居ればちょっと小銭を借りることができたのだが、今日は委員会の徴収があるとかで彼女はまだ校内にいるはずだ。
客が少ないとはいえあいているレジの都合上込み合っている。
「あっ、やっぱりー
どうしたの?お財布忘れた?」
のんびりとした調子の聞き覚えのある声。
「えっと?」
「あっ。サングラスとマスクでわかんないか。
先週はどーも。
それより後閊えてるけどけど」
ぬくぬくパンツにもさもさのロングジャンパーという緩さ全快のお家スタイルの女。
一瞬、聞き違いかと思ったが本人らしい。
落差が激しすぎる。大人になると女とはこんな悲しい生き物になるのだろうか。
「おねーさん、それこっちで払うんで取り消しで」
快斗があっけにとられているのを良い事に名前はパイントアイスをさっさと自分の籠に移した。
「ちょ、それ俺の・・」
「お財布忘れたんでしょ。
物が物だしなんか戻しにくいじゃない。
ちょっとこれ袋詰めするの手伝ってくれればOkだからね」
アイスはものの数秒でレジを通貨した。
人質ならぬアイス質と取られた快斗は仕方なしに籠を持ち上げる。
「重っ・・・買いすぎだろ」
「そうかな〜これであと2週間持ってくるれるとありがたいんだけど」
せかせかと買い物袋をバッグから取り出すとさらに小さく畳まれたビニール袋が出てくる。マトリョシカの要領でぼろぼろと出てくるビニール袋に食材を詰めていく。
ふと快斗の手元が止まった。
「あっ、それはこっちに入れるから」
何の抵抗も無くエコバッグに消えていったサの付く食材に快斗の硬直が解けるまで30秒。




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テーマ「人外ファンタジー」
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