きっちりと巻かれた包帯をピシリと叩く。
「はい、終了」
「どうも」
思うわず礼をのべた怪盗に名前は苦笑した。
やっぱり若いな。
自分が高校生のときってどんなんだったろう?
バイトのし過ぎで記憶が半分飛んでる気もしないでもないが、目の前の少年はやはり当時の同級生と比べても異質なものを感じた。
たとえば道端で通りすがった学生。
休日のカラオケショップにたむろする少年少女。
そういった人種とはどこか違う空気を持っている。
それでも違うことによる孤独は微塵にも感じさせない、健康的でかつ好感の持てる雰囲気が伝わってきた。
「で、猟師にでも狙われちゃったのかしら?」
奇妙な形でひしゃけたグライダーの骨格を指差した名前に怪盗は苦笑した。
「夜目の利くオオカミってところでしょうか、」
「あっ、変に気取った話し方しなくていいから。
もちろん、そっちの方が楽ならいいけど」
「とにかく危険なことに首を突っ込まない方が良いですよ。
助けていただいたことにはもちろん感謝しますが、早めにここを立ち去ったほうがいい」
「それじゃ森のくまさんになっちゃうわねー」
「まじめな話なんですよ」
のんびりとした調子でかえす名前に怪盗は忠告を促す。
「あのね、危ないのは君。
夜中に未成年が、こんなところでなにやってるの。
本当に……誰か迎えは来るの、ちゃんと帰れる?」
迎えは恐らくもう近くに来ているはずだ。
グライダーとひっかかってるマントを外さないと。
頭上ではためく布切れを見やりながら怪盗は逃げる算段をつける。
すると不意に立ち上がった名前がワンピースドレスのファスナーを一気に下ろす。
「ちょ、何してるんですか!?」
「えっ、このまま木登りしたらドレス引っ掛けちゃうじゃない。
大丈夫、下にもいっぱい着てるから」
言いながらドレスを脱ぎ捨てると目にも止まらぬ速さで木登りを始めた。
「投げるよー受け取ってね」
あっという間に引っかかっている枝に到達するとマントとグライダーを投げてよこす。
怪盗はできるだけ名前から目を逸らしてそれを受け取った。
今度は登りとは正反対に恐る恐る木の幹を下る。
しかし中腹に辿り着いたあたりで人気を感じた名前は猫のように素早く登っていく。

「坊ちゃま〜快斗坊ちゃまーーー」
やって来たのはやはりというか寺井だった。
いきなりの本名プレイにさしもの怪盗もぎょっとする。
ちょ、寺井ちゃんタンマ!!
「大丈夫でしたか!?お怪我は!!」
巻かれた包帯を見て寺井は大げさに仰け反った。
「いや、たいしたことねーよ。それより……」
木を見上げると真っ白い塊となった名前がじっと気配を殺して様子を伺っている。
さらに猫っぽい。
上から寺井が敵でないことを悟るとそろそろとまた倍以上の時間をかけて木を降りていく。
「あーーびっくりした。
私、高所恐怖症なんだよね。
登ってるときって上しか見ないじゃん?
でも下るときってどうしても下を見て怖くなっちゃうのよ」
第三者の存在に寺井は驚き、また彼女の格好がちぐはぐなことにも違和感を感じた。
洋服ーと呟きながらワンピースを被りだすとさすがに理解したのか回れ右をして視線を逸らす。
「えっと自己紹介必要?」
「していただけるなら、魔女ってのは無しですよ」
雰囲気からじと目で見られているのを感じた名前だったがきっぱりと言い返す。
「魔女ってのもホントだよ。
まだ、こっちでは使ってないけどね。
今は一応、自家製ニートってやつ?
またはシングルトン、出来ないんじゃありません作らないんです」
ニートって……おいおい、本気で暇してるなこの人。
「で、その暇人がなんで夜更けにこんなところうろうろしてるんだよ」
「心配でつい、
どう見ても墜落したようにしか見えなかったし。
私、こう見えても面倒見は結構いい方なのよ。
それに何よりね、恩があるし」
「恩?」
「まだ秘密☆
楽しみは後に取って置くものよ。
年を取ると焦っても良い事無いってよく解るし。
若い君にはまだ理解出来ないでしょうけどね」
「若いって俺らそんなに年離れてないだろ」
「ふふっ、それはどうかな?
あっ、寺井さん。今夜はこの子ちゃんと送ってあげてね。
ひょっとしたら熱出るかもしれないし。
私もそろそろホテル戻らないと」
「ちょっと、待てよ」
踵を返して名前は駆け出した。
「またねーー!」


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