雅3
昌平君が帝側についたってよ、ひゅー!
咸陽で呂不韋との決着がついたとの情報が早馬で私たちのいる陣へと伝えられてめっちゃテンションが上がった。
ついでに早馬は私に帰還せよという命令も持ってきたので戦の後処理を手伝うために小隊に分けて咸陽へ戻ることになった。
ふう。
縁談の話どうなったのかな。
出る前はまだたくさんある中からお父様が精査している途中だったけど、さすがにどなたとだか話は進んでいそう。
いっそこのまま逃げてしまった方が逃げきれる可能性は高いのかなと思うけど。
最後に一度くらいお父様たちや・・・できれば昌平君の顔も見たいしな。
と悩んだあげく私は素直に帰ることにした。
帰ってすぐに私はお父様に呼ばれた。
足が重かったけど、呼ばれた部屋へ入ると。
そこには我が愛しの昌平君もいた。
会いたいと思っていた人との突然の出会いに思わず「はえ?」と変な声が出たが、隣にいるお付きにしか聞こえなかったと思うのでよしとする。
しかし、昌平君はあいかわらずのナイスガイですね。
格好良すぎてふるえる。
思わず私は昌平君を凝視すると、昌平君の方も私を凝視してきたのでなんかお互いメンチを切りあっている状態となった。
「夏芽。貴女は私が帝についたことは聞き及んでいるか?」
「はいもちろんでございますわ、昌平君殿。貴殿が味方になってくださるなんて喜ばしいことこの上ありません。本当に感謝しております」
私が礼として手を合わせ頭を下げると、昌平君はそれを黙って見下ろした。
そして幾ばくもなく上から昌平君の息を吐いた音が聞こえた。
「・・・。夏芽、貴女は私以上の策士だ」
「?」
言っている意味が分からなくて私は首を傾げると昌平君は私のそばまで歩み寄ると、私の背へと腕を回した。
思わぬ昌平君の抱擁に驚いて見上げると。
表情が薄いながらもどこか熱い瞳で見つめてくる昌平君の顔が目の前にあって、一気に私の顔は上気した。
え、何これ?昌平君に抱きしめられているんですけど?サービス?それとも夢?そしたら覚めるなお願いします。
「しょ、昌平君殿」
「無礼を許せ。貴女は私の妻となることとなった。だから構わぬだろう」
「はあ、え、つ・・・妻!?」
驚いて後ろにいるお父様に視線を送るとなんか神妙に頷かれた。
へ?本当に。
えっ、ドッキリとかでなく?
お父様、プラカードとか隠してないよね。
そしたら吹き矢お見舞いするよ。
「私が帝へとつく際に、交渉した。夏芽、貴女は私のものとなるのだ。貴女が望まなくとも」
「・・・」
「断ることは許さぬ」
思わぬ急展開の嵐に声にならなくなって何も言うことができなかった。
え、私が昌平君の妻になれるって。
今、この瞬間なら私死んでもいい!あっやっぱだめ!!
「嫌か、夏芽」
「いえ、とてもうれしいです」
回らない口でどうにかカタコトになりながらもそれだけ口にして。
私は自分から昌平君に抱きついた。
すると昌平君もどこかぎこちないながらも、まるで離すまいというように先ほどよりも強く抱きしめ返してくれた。
なんでこんなに私にとってうまくいきすぎている展開になっているか分からないけど、幸せすぎて死ねるこれ。
私はいつドッキリのプラカードが出てきてもいいように昌平君の腕の中を堪能することにした。
私はまさかこのとき昌平君が私に逢瀬をすっぽかされたことにより、他に心がいっていると勘違いをしていて。
もう結婚を望んでいないと思われていたなど知らなかったので。
私の周りに相当厳重な警備を敷かれる監禁新婚生活が始まることになるとは夢にも思っていなかった。