雅2
私に縁談があがってきた。
まあいくら将として名をあげたとしてもそれは避けられないことだろう。むしろ遅かった。
少しでも使える兵は使わなければならなかったから女ながら武功をたくさん上げていた私はそれを許されていたが、函谷関の戦いも終わり乱もある程度収まってきた今ははぐらかすのも難しい。
好きな人と一緒になることなど望めない世だ。仕方がないこと。
・・・なんて言うつもりはないけどな。
絶対どこかのタイミングで逃げてやる、逃げるために一騎当千だってしてやるわと考えるほどには私はじゃじゃ馬だった。
「夏芽」
「あら。ご機嫌よう、昌平君殿」
そんな縁談話もあがってきた中、あまり会いたいけれど会いたくない人と城の道で会った。昌平君だ。
ちなみに私は話し方を忍び込んだときと変えている。
なんたって公では彼はめっちゃ上司だ
昌平君は相変わらず整った感情を見せない顔を私に向けたので、私の胸は高鳴った。
イケメンですね。
逃げるときには彼を誘拐して行きたいわ。
そんな王騎以上の力が私にあれば・・・。
「今宵は月が美しいだろうな」
「はい。きっと満月でしょうね」
心を読まれたら一歩下がられるようなことを考えながら昌平君を見つめていると、昌平君は月の話を始めた。
今夜は昌平君の屋敷へいつも忍びこんでいた満月だ。空も雲がないのできれいな月夜となるだろう。
でもいきなり月の話なんてどうしたんだろう。疲れているのか?
私が少し首を傾げると、昌平君は表情を変えることなく言葉を紡いだ。
「そうか。今宵は楽しみだ」
と言うと、それ以上は何も言わずに去っていった。
・・・そんなに月が楽しみなのか。
昌平君は月が好きという新たな情報を私は心の中でメモをした。
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今宵は楽しみ=今夜来い
だけど気がつかずフラグを折る