おれが来ちゃった!体育祭4
冬樹は黒羽との対戦の為に競技場へと上がった。
うわあ、めっちゃ見られてるよこれ。と思いながらも目の前に立つ楽しそうな黒羽へと視線を向ける。
黒羽は見るからにやる気まんまんだ。
だが、冬樹は笑顔ではあったが正直どうしようかなと思い悩んでいた。
黒羽の個性は長いつきあいなので把握している。だから、黒羽に勝つ方法は数パターンすでに考えついていた。
決して黒羽が弱い訳ではない。
むしろ本日二回も冬樹の血を吸っている黒羽はA組に引けを取らないくらいの実力はある。
それでも勝とうと思えば勝てるだろう。
それくらいの実力差があることは冬樹自身知っている。
強くなることだけのために生きてきたのだ。戦いの知識だけはある。
競技開始の合図が響いた。
それと同時に黒羽は背中にコウモリの羽を生やし、空へ舞い上がる。
冬樹に対し、距離を置くことをまず考えるのは適切だ。
黒羽の方も冬樹の表の個性を知っているので、近接戦闘になるのは避ける狙いだろう。
一つの黒羽に勝つパターンは飛ばれる前の速攻であったが、冬樹は分かっていてそれを見送った。
黒羽は空高くへ移動すると小さなコウモリを大量に冬樹へと飛ばした。冬樹はそれを体に触れる前に倒しながらも、これは俺の血を吸い体力を削ぐことが目的だなと理解した。
噛まれたら血を黒羽に補給して、またコウモリを出すのループを狙っているのだろう。
もうこれ以上血は吸われたらしんどいと、冬樹は向かってきたコウモリを殴り蹴り消しながらも、隙を伺う。
そして一瞬隙ができたと同時に、冬樹は空気を口から大きく吸い込み
「俺のっスマッシュ!!!」
と叫び大きく黒羽の飛んでいる方角の空気を殴り、その衝撃波で周りのコウモリを一層した。
本当なら黒羽にも衝撃波を当てようとしていたが、さすがにそれは避けられてしまった。
観客席はそれを見てどよめく。
まるでオールマイトのように強力な技は見る者を圧倒した。
とはいえ、オールマイトほどの威力ではないが。
もし、オールマイトの威力で空を殴っていたなら黒羽を落とせただろう。
けれど本調子でないのも確かだが、本気を出しても今の冬樹では彼ほどの力はない。
それでもその威力は確かなもので空を飛んでいた黒羽も目を見開いている。
「さすがだね、唐沢くん」
「だろ!俺はちょうさすがだしっ」
「あれ?自分で言っちゃう?」
「え?言わない方がいいのか?じゃあ・・・俺なんてまだまだですよ!」
「それはそれで悔しいね!」
「だろお!」
冬樹は黒羽へとピースをすると、ニヤリと笑った。
それに黒羽は内心冷や汗を流す。
演技ではなさそうな冬樹の疲れていない様子に黒羽は困った。
黒羽は冬樹に勝てる算段などなかった。
少なくとも接近戦はできないし、距離を置いてコウモリを出しても血を吸えなくこれではこちらの方が消耗は激しい。
だから、黒羽は観客席を一瞬チラリと見てコウモリを一度しまい空中から冬樹を警戒する。
そうして次に先ほどより一回り大きなコウモリを三匹出して冬樹を囲むように向かわせた。
目的はコウモリの超音波で鼓膜へと攻撃をするためだった。
しかし、音を出す前に冬樹は闘技場へと拳を落とし地面のコンクリートを砕くとすぐにコウモリへと破片を投げてあっと言う間に三匹のコウモリを消してしまった。
行動と判断が早い。ふだんはふざけた態度のくせに。
黒羽は消されたコウモリを見て、やはりこれからのことを考えてもったいぶっていては勝てないと今度は自分と同じくらいの大きなコウモリを出そうと冬樹を見た。
これなら離れていようと超音波で攻撃できる。
が、大コウモリに攻撃させようとしたそこに冬樹の姿がない。
いつの間に!?と黒羽は焦って闘技場を見渡すがいない。
「え?唐沢くんどこいったの?」
「ごめん、黒羽!俺降参するわ」
「!??」
『ハっ、唐沢選手場外ーー!!?』
声のした方向を向けば、冬樹はすでに競技場から降りて、笑いながら黒羽へと手を振っている。
いつの間にか場外へ出ていたのだろう。
「なん、で。降参するの?唐沢くんなら勝てたでしょ」
「そんなことないって。それに俺はジェントルマンとして女の子に攻撃するなんてできないから!」
「はいっ、嘘!」
黒羽へと遠慮なく衝撃波を撃っていたくせに冬樹はいけしゃあしゃあと答えた。
まあ、もちろん女の子を攻撃できないは嘘である。
あのスマッシュを撃った時点で冬樹は黒羽が避けられないようなら次へ進み、避けたなら降参すると決めたのだが黒羽は避けてみせたので冬樹は降参した。
所用で少し降参を遅らせたが。
まだ何か言いたそうに頬を膨らませる黒羽へと冬樹は無邪気に微笑み会場を後にした。