商人の憂鬱3
「クソっ唇切ってやがる」
相変わらず商談の前、おれはいつものようにドフラミンゴと喧嘩をした。
今回は青空の下、屋外へ出てすぐの草原で戦い。
それが終わってから唇に違和感を感じたのでおれは草原にあぐらをかいて座って持っていた手鏡で見てみるとやはり唇が切れていた。
血が滲むレベルを超えて血が滴っている。
思わずおれは舌打ちすると、それを横で眺めていたドフラミンゴは楽しそうにフフフフ笑った。このやろう。
「大丈夫かァ?アキ」
「労りの言葉をかけるくらいならやるなよ、ドフラミンゴ」
「その分の料金はプラスしてやってるだろ?てめェが言うからな」
「当たり前だ。貰わねェとやってらんねェよ。だいたい金はいらないからおれとしては平穏に商談が終わってくれた方がいいわ。おれは商人であり喧嘩屋じゃねェ」
一応ドフラミンゴは金払いがいいのでだいぶ懐は潤っているが、こんなデッドオアアライブな戦いいつか死人が出る。
その場合おれはドフラミンゴを殺すつもりは今のところはないので、その死人はおれになるだろう。
・・・いや、誰が殺されてやるかこのやろう。殺されそうになったら首に噛みついてでも道連れにしてやる。
しかし、それにしても顔に傷が付くのはあまり嬉しくない。
お嫁に行けないからとかそんなアホな理由ではもちろんなく、やはり商売人なのでできるだけ綺麗な顔で客と接した方がいいからだ。
だがまあ、今回怪我をしてしまったのは俺のミスだから仕方がない。
今日は銃を得物に使って戦っていたのだが、おれはやはり他と比べ銃の扱いは上手くできないようだ。簡単な武器だがやはりすぐに装填できないのでドフラミンゴのような一瞬が勝機を分ける者が相手だと銃口を向ければすぐに軌道を読み避けられ隙が生まれる。
「チッ、舐めとけば治るか」
それでもやはり顔を怪我したことがプライドとして悔しくて傷口を鏡で見ながら再び舌打ちする。
おれが不機嫌に座っていると。
自然な動作でおれのすぐ近くまで来ていたドフラミンゴが、横から不意におれの顎を掴んだ。
それによりおれはドフラミンゴの方へ強制的に振り向かされた。
もう殺気も無かったのでおれはそんなことをして相変わらず楽しそうなドフラミンゴを睨むと、ドフラミンゴは気にした様子もなく笑い続ける。
そして彼の顔が近づけられ
ドフラミンゴの長い舌でおれは唇を舐められた。
柔らかくなま暖かい。そんな感想をとっさに持った。
まさか舐められると思いもしなかったおれは呆気にとられ固まる。
だが、すぐに我に返ると目の前でニマニマしているドフラミンゴの額に頭突きをお見舞いしてやろうと素早く頭を引いたが、頭を前へ倒したときには紙一重で避けやがった。
「テメェ!ドフラミンゴ何をしやがる、このやろう!!」
「舐めときゃ治るんだろう?だから舐めてやったんだ。ありがたく思え、アキ?」
「って、おまえが舐めるのかよ!?」
「・・・なんだ、おれ以外に舐めさせるつもりか?」
「いや、普通は自分で舐めるだろ!?」
意味の分からないところで不機嫌になったのか、殺気をはらんでサングラスごしに睨んできたドフラミンゴに思わず銃を構えながら答える。
本当に面倒くさいこのお客は。
何が楽しくて男に物理的に舐められなくてはいけないのか。いや、女だとしてもおれは銃を向けていただろうが。
というか、普通ならおれはドフラミンゴと縁を切っているだろう。
もしドフラミンゴ以外の客が喧嘩をふっかけてくるならさっさと切り捨てるし。
そこまで客に困ってはいない。
だが、それでも切れないのは金払いがいいからか。
本音で言えばぶっちゃけどちらかと言うと腐れ縁的なものだな。やはり長年顔を合わせているとこんなおれでも少なからず情が沸く。
絶対に言わないけどな。
「フッフ、フフフ!遠慮すんな。てめェが怪我をしたらいつでもおれが舐めてやる」
どうやらいつの間にかドフラミンゴは機嫌が治ったらしい。
喜怒哀楽の哀以外が激しいですね。この鳥は。
長い舌を見せつけるようにして言うドフラミンゴに微妙な気持ちになりながら、赤らむ空に今日中に商談はできるかなとおれは憂いた。