浜辺の追想録3

海賊となって仲間も順調に増えていたある日立ち寄った島で、ローはとある賞金稼ぎの話を聞いた。

「黒剣のアキ?」

「はい、今この島にいて何だかすげー強い剣士らしいですよ」

アキという名前にローが反応したことには気が付かずに、クルーは話を続けた。
彼が言うにはまだ年の若い剣士だそうで黒い剣を使っていることから黒剣と名付けられたと言うことらしい。

それはローの探し人と同じ名前で、同じ得物だ。
だが年が若いのなら知っている男ではないだろう。
昔自分を助けた男。

あのときはローは幼いせいで気が付かなかったが、フレバンスは封鎖されていたのだ。
それなのに自分を助けるために囮になったあの人は本当に逃げきることができたのだろうか。
それができるような実力なら幼いローを死体の山に隠れさせる方法を取らなかったのではないか。
ずっと、ローは彼が自分を犠牲にして自分を助けたのではないかと疑っていた。


件の彼があの人だなんて。

今まで探してきたが見つからなかったのだ、希望なんてむなしいだけ。

それでも。
胸騒ぎがして、ローはその男に会うことにした。





アキがいるという浜辺に向かえば、それはすぐに分かった。
鞘からなにまで真っ黒の剣を下げている彼は昔会ったあの人と瓜二つだった。

だがすぐに歓喜した心は疑念へと変わった。
まさか、あれからどれだけの年月が経ったと思っているんだ。
彼は記憶の中にあるあの人とほとんど変わらず、まったく老けていない。

本人ではないのか。
だがあの人の息子だとしても似すぎていた。

この海には不思議なことなんてありふれているのだ。
オペオペの不老不死の能力のように年をとらない何かがあるのかもしれない。

そうだ。

まずは手に入れてから考えればいい。

そっくりな彼を観察しているうちにローは疑念よりも、あれが欲しいという欲望の方が強くなり。
なんとしても手に入れたいと心が叫んだ。

「おまえが黒剣のアキか」

「・・・トラファルガー・ロー」

あの人と同じ声にローは確かに歓喜した。





ローは少しのやりとりの後に逃げだしたアキを捕まえ、彼を船に乗せることに成功した。
いきなり逃げられたときは本当にヒヤリとした。

無理矢理という形になったので不本意そうなアキが逃げないようにローはアキの心臓を抜き取り預かったままだ。


あの後、ローは少しずつ昔出会った彼と同じ人物か探ってはみたがアキはフレバンスに行ったことはないらしいが、アキという名前はだれかから貰ったものではないらしく。また、刀も退治した海賊から奪ったものであるという。

だからローはまだ彼が本人かどうか測りかねていたが。
それでも手放すつもりはない。



「ロー、そろそろ心臓を返してもらえないか?」

返してもらっても絶対に逃げないから。

ローは自分の船長室へアキを呼んで話していると話の途中でアキは懇願してきた。

・・・絶対に逃げないか。

なら、なぜこの船の船員になることを拒む?

船に来てから何度も船員になれとローが言ってもいつも拒否してくるのでアキは現在客分でしかない。
なぜ頷かないか聞いても、いつまでここにいられるか分からないからと言葉を濁すアキにローはいつも歯痒く感じる。
それでも心臓を取る以上に強く出られないのは嫌われる境界線を見定めているから。


「フフ、分かった。心臓をやるよ」

「本当か、ロー!?良かった。ありがとう」

まったく自分を信じている瞳を向けてアキはお礼を言うのでローは楽しくなり笑った。


そしてローは彼の期待に応えて”ROOM”を張りアキの胸へと心臓を移動させてやる。

うれしそうにアキは左胸を押さえたが。
勘がいいようで、もう違和感に気が付いたアキはローへ伺うように視線を送った。

「ロー?」

「だれがテメェの心臓を戻すと言った?」

それはおれの心臓だ。大切にしろよ?

ローがそう笑ってやればアキは驚いて目を開いたが、すぐに困ったような顔になった。

「はあ。ちなみにおれの心臓はどこにある?」

「・・・分からねェか?」

アキの質問にローは自分の左胸を押して答える。
それにアキはすべてを悟ったらしく、「おれの心臓も大事にしてくれ」と言い息を吐いた。




アキにコラさん。
どちらもおれを助けてくれて、いなくなった。

次は絶対に逃がしはしない。







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