風邪の特効薬

美しき海賊団の船長キャベンディッシュと海賊になる前から幼なじみをやっていたおれはキャベンディッシュが船長になってからも船員として一緒にいる仲だ。

そんなおれは今現在進行形で風邪をひいている。
原因は最近季節の異なる島を往来し寒暖の差が激しかったことだろう。それなのに戦闘の連続であったため一気に体調を崩した。
人より丈夫にできているので風邪などかなり久しぶりで、ひいた風邪は頭は痛いわ、気持ち悪いわめんどうくさかった。

「まったく、風邪をひくだなんて健康管理がおろそかだからだ」

「すまない」

おれが幼なじみの特権で用意されている自分の個室の部屋で横になっているとキャベンディッシュはやってきて早々に苦言をもらした。
まあ、彼の言うとおりおれの体調管理がきちんとなされていなかったのが悪いのでなんとも言えない。
これくらいで体を悪くするなんて考えていなかった油断が大きかった。

そんなことを考える横でキャベンディッシュはガミガミと口うるさい説教をし、ふと横のテーブルにあった薬の袋を手に取ったのでおれの口の端は思わずひきつった。

「おい、アキ。薬が減っていないじゃないか!ちゃんと薬を飲まないか!」

・・・ああ、やばい。
隠しておくの忘れた。

めざとく気がついたキャベンディッシュは薬の袋を掴むと減っていない中身を見て目をつり上げておれを叱った。

おれは薬が苦手だ。
なので船医に渡されていた薬を放置しておいたのだが、バレてしまったので内心ため息をつく。
キャベンディッシュは早く飲まないかと薬を押しつけてこようとしたので、その前におれはキャベンディッシュの手を掴み、じっとキャベンディッシュの瞳を見つめる。

「薬よりも、おれはキャベンディッシュのきれいな顔を見ていたいな。その方が早く風邪が治る」

そんな歯の浮く台詞をキャベンディッシュへと言うと、ふつうなら誤魔化されることなんてないだろうが自分に大いに自信のあるキャベンディッシュは少しだけ顔を赤く染めて「ふふ、それはそうだろう。アキはぼくみたいな美しい幼なじみがいて幸運だな」と満面の笑みをする。

キャベンディッシュは昔からチョロかった。

はじめて会ったとき、とりあえず仲良くなるためにと褒めようとして一番に目に付いた容姿を褒めたらはじめは戸惑っていたけど、すぐにナルシストばりに褒めると喜ぶようになった。
こんな風にキャベンディッシュがなったのはそんなタラシのようなことを言うと簡単に機嫌が良くなるのでキャベンディッシュをきれい、美しいと散々に褒めていたせいかもしれない。

いや、彼の容姿ならおれでなくても他から褒められていただろうからおれがいなくても結局こうなったか。

ただおれは人一倍彼のことを褒めるのでそのせいで他の子におれが可愛いねと褒めるとすぐに首根っこを捕まれ、ぼくのほうが美しいだろうと嫉妬までされる。
その度おれはキャベンディッシュの方がきれいなり美しいなり本心を言うのだけど。だいたいキャベンディッシュの容姿は可愛いではなく、美しい綺麗美形というカテゴリーだろうと思う。

単純でいて面倒くさい船長だけど、一緒に海賊になる程度にはおれはキャベンディッシュのことは好きではある。

だと思うけど。

「キャベンディッシュ、顔が近い」

「フフ、ぼくの美しい顔を見て早く風邪を治せ」

「んな、もう少しで接吻しそうなくらい顔を近づけられたら御顔を拝見できねェよ!てか、風邪が移る離れろ」

「遠慮はしなくていい。ぼくとアキの仲だろ。それに船長としてアキには早く治ってもらわないとね」

いつのまにか寝ているおれに超至近距離まで顔を近づけてきたキャベンディッシュへ文句を言うがキャベンディッシュは離れようとしない。

アホである。

せっかく見た目がいいのに残念な人だ。


けど、こんなアホな行動をとるキャベンディッシュは、可愛いと思う。







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