きみのためなら

(クザン視点)

ある日の休日。
海軍の同期であり気心の知れたアキの家でグダグダとくつろいでいるとアキは思い出したように口を開いた。

「ああ。明日はホワイトデーか」

「そういやそうだねェ」

アキはおれと同じように面倒くさがりで、そんな人によっては大事な行事もただ面倒くさそうに吐き出した。

「なに?チョコもらったの?」

「ああ。何人かから」

一瞬アキは数を数えようと手を上げたが、すぐに面倒くさくなったのか数えるのを止めた彼は本当におれがいうのもなんだけど駄目な男だ。

だが、アキは面倒くさがりで無口のくせにそこがクールだとかいうので人気がある。
なので毎年チョコを渡されていて、今年も紙袋をさげていたので貰っているだろうと思っていたけどやはり貰っていたらしい。

「今年もなにかお返しすんの?」

いつもアキは面倒くさがりのくせにお返しはかかさない。
聞くところによると昔、彼の姉にバレンタインのお返しはきちんとしなさい。と躾られたかららしい。
なので毎年ホワイトデーにはもらった人へ簡単に飴やらクッキーやらを渡している。


「うーん。まだ今年用意してないしな」

買いに行くの面倒くさいと呟いたアキはまったくの駄目人間だ
こんなやつに恋して渡した子にこの言葉を聞かせて正気に戻してあげたいと思う。

呆れたようにおれがアキをみれば「あっそうだ」とアキは口を開いた。

「チョコくれた子にお礼にハグでもしておけばいいか」

「・・・」

まったく最悪なひらめきにおれは息を吐く。
本当にこんな駄目男のどこがいいのか。

「義理でくれた子はそんなの望んでないでしょうや。ほら、お返し買いに行くよ」

「はあ」

途端に面倒くさそうな顔をするアキの背中を押して近くのホワイトデー用のお菓子が売っている店へと促す。

本気の子が余計に本気になってしまったらどうするのだろうか。

そんな芽生えた苛立ちをおれは無視をする。



後日、ホワイトデーの日。
アキはちゃんと一緒に買いに行った飴を渡したのかと心配になりながらも執務室で仕事をしているとアキはおれに渡す書類と共に現れた。
その様子は普段と変わりはない。

だからまた忘れてんじゃねェかと思って、書類に関しての話が終わってからホワイトデーの話を切り出そうとしたけど。
その前に、アキはおれへとかわいらしい青色のリボンのついた小包を手渡してきた。

「クザンこれ」

「ん?なにこれ」

こんな大男に渡すには似合わない包みを促されるままに受け取っておれが困惑すると、アキは淡々と説明した。

「ホワイトデーのプレセント。クザンもおれにチョコくれたでしょ」

「確かにあげたけど。ただのちっちゃいチョコでしょ」

「でももらったから」

たしかにおれはバレンタインデーの日、なんとはなしに紙袋を手に下げていたアキにどこにでも売っている袋入りのチョコレートを一粒あげた。

たしかにあげたけれど。
それにしてはつりあわないお返しだし、この包みはおれと一緒に買った飴ではない。

「・・・そっか、ありがとな。でもコレいつ買ったの。おれと買い物中?」

ずっと一緒にいたのにいつの間に、そんな暇があったかと首を傾げるおれアキは少しだけほほえんだ。

「いや、前から買っていたよ」

おれはアキのその言葉に目を瞬いた。
ホワイトデーのお返しを忘れていた訳じゃなかったの?
そんなおれの視線にアキは肩を落とす。

「クザンへのお返しならおれも忘れないし、面倒くさくない」


それは・・・いったいどうとらえればいいのだろうか。

それだけ言って部屋から出ていくアキの背中を見送って、おれは困惑しながらも手の中にある包みに熱がこもるのを感じた。







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