夢の追想録
おれはローの船に乗るようになってからだいぶ経ったある日に夢を見た。
燃える真っ白な町の夢。
おそらくこの炎がなければ本当に真っ白だったのだろう。
そんな美しい町が燃えている。
とか感慨深く突っ立っている訳にはいかない。町のあっちこちで銃声や爆発音がするからな。
この世界に来て十三代目石川五右衛門みたいに銃弾を斬れるようになったけど、まだまだおれも未熟ゆえ。下手に飛び出せば死んでしまうかもしれない。
なのでおれは建物の影へと走った。
さて、これはおそらく夢だろう。
おれはここに来る前に潜水艦内の大部屋でハンモックで寝ていたし、今おれは愛用している旅館で使うようなゆるい浴衣の寝間着姿だ。
なのにちゃんと剣は持っていたし、町の中に立っていたのでどっかの島においてきぼりにされたわけでもないだろう。
・・・ん?まさかまたどっかの世界に来ちゃったって訳じゃないよな。
ハハッ。
さて、これからどうしよう。
おれはこれからのことを身を隠しながら考えていると子供の泣き声が聞こえてきた。
こんな銃弾が飛び交う中に子供がいるなど放っておける筈もなく、そちらへ近づいて覗き見てみれば。
おれはすべてを把握した。
あの子供はうちの船長(トラファルガー・ロー)の小さいときですね。
漫画で見たわ。
そして、姉の部屋にあったわ(フィギュア)。
てことはこの真っ白い町はフレバンス。
で、ちょうど故郷が襲われているときか。
もっと早く来ていればよかったのだろうけど。
遅かったみたいだ。
子供・・・ローは病院を見上げ泣いている。
おれがなにかの能力ものだったら、いやあの炎ではもう無理か。
そんな大声で泣き叫ぶ子供に気がつかないわけがなく、男がローを拳銃で狙っているのをおれは見つけた。
キンッッ!!!
おれはすぐにローへと駆け寄り、放たれた弾を斬った。
そして持っていた投げナイフを撃った男へと投げ、下手なので当たりはしなかったがひるんだ隙に何が起こっているのか理解できていないローを小脇に抱えその場から逃げた。
おれが何もしなくてもローは助かるのだろうけど、何かせずにはいられなかった。
ローは抱えて走るおれに驚いたような涙やらで濡れた顔を向けて、また涙を流した。
「とりあえず、ここに隠れていればしばらくは安心か」
途中でシスターやら子供やらの死体を見つけるハプニングもあったものの、おれは建物の屋根の影にまでおれの身体能力を駆使して上がり、ローを降ろした。
どうやら目視できるところに柵が見えるので、ここは境から近いようだ。
気持ち的にローには遠く及ばないがブルーだったけれど、挫けてなんていられない。
「怪我はないか?」
「だい、じょうぶっ」
全然大丈夫そうではないけれどローは答えた。
まあ、家族や友人たちが死んだところを見たのだから痛みなんてあったとしても分からなくなっているだろう。
おれはその光景を思い出して痛ましくなり、ローの頭を撫でる。
でも労っている暇はないのだ。
「なら、走れるな?」
「走れる、げど」
「なら、走れ。いいかあそこに死体の山があるだろ。そこに隠れて外に出るんだ」
「!!?」
「おれがおまえの隠れる間。近くにいる大人を引き付ける」
たしか原作では死体に隠れて助かったはずだし、それでなんとかなるはずだ。
おれは下を見下ろす。
男たちが銃を持ちながらも大きな荷台に死体を乗せている。
おそらくは死体を放置していればまた別の病気が広まるから、外へ出して埋めるなり燃やすなりするのだろう。
一緒に死体に隠れてやれたらいいけれど、おれの体格だとこっそり隠れるのは難しい。
外に出た後はローに任せるしかない。
おれがローに提案すると、ローはまた涙を溢れさせる。
「おまえは・・・、おまえはどうすんだよっ」
「おれは大丈夫だ。おれは外から兵士にまじって来たから簡単に外に出られる」
「へいし・・・、おまえは、敵なのか?」
心配させないように嘘を吐くとローは目をまんまるく見開き敵意が浮かんだので、おれは首を振って否定した。
「おれは敵じゃない。守るために来たんだ」
きっとこの夢はおれが深層心理で船長であるローを守りたいと思ったから見ている夢だろう。
やけに現実味があるのは困りものだけど。
おれが味方だと安心させるために笑って伝えればローは信じてくれたのか体をふるわせおれに抱きついた。
「できるな?」
「できる、・・・なあ、おまえの名前は?」
「おれはアキ。よろしくな」
名乗るとローは覚えるように何度もおれの名前を呼んだ。
こうしておれは銃を持った男たちの前へ踊り出てローが逃げる手助けをした。
いくらか剣で防いで人を集めてから引き付けるよう逃げて、後ろから銃声に追われて正直死ぬかと思った。
けど、逃げる途中で世界がぐにゃりと歪んだと思ったらおれはいつもの潜水艦の部屋でハンモックの上にいた。
まだ朝も早いので眠っているクルーのいびきがあちこちから聞こえる。
やっぱり夢だったのか。
おれは眠った気があまりしなかったけどここでまた寝たら寝坊すると思い起きることにした。
ひとつ欠伸をして、眠たい目を瞼の上から擦り、朝の準備をして。
なぜか起きたらおれの腹の上にあった剣を持って朝食を食べに食堂へと向かった。
子供のローが助かったのか気になったけど。
今、おれの船長は生きているから問題はない。